うつ病や認知症にも? 「オーディオブック」が脳機能にもたらす効果
2022年08月29日 公開 2024年10月21日 更新
高齢者のみなさんはぜひオーディオブックを
この実験に協力していただいたのは、重森先生が活動拠点のひとつにしている、要介護者のリハビリ施設に通う65歳以上の高齢者のみなさんで、オーディオブックを聴きながら運動をしてもらって、脳血流に及ぼす影響について調べてみました。
その結果、以前から認知症予防トレーニングとして標準的に使用されている計算課題と同等の脳血流反応が認められ、オーディオブックのほうが「慣れ」「飽き」による効果の低下が起きにくいことが明らかになったのです。
認知症を改善すると断定できるまでには至っていませんが、それを示唆する結果を得ることができましたので、私たちは2021年10月にこの実験に関する論文を発表しました。
海外でも実証されているオーディオブックの精神衛生上の効果
もうひとつ、興味深いエビデンスを紹介しましょう。
イランのシャヒード・ベヘシュティー大学の研究チームが、2017年9月に、オーディオブックが高齢者の精神衛生に与える影響に関する論文を発表しました。研究の結果、オーディオブックによる読書は、ビブリオセラピーと同等の効果があることがわかったというのです。
ビブリオセラピーとは、端的にいえば「読書療法」のこと。人々が抱える心の悩みを、読書によって解決に導く心理療法のひとつです。ビブリオセラピーが社会に根づいているイギリスでは、2013年6月からなんと政府公認で、精神疾患の患者に対して薬ではなく本を処方する制度がスタートしています。
ビブリオセラピーについては、イギリスのサセックス大学やアメリカのイェール大学など、数多くのチームが研究を行っており、読書がストレスの軽減や心の安定をもたらし、ひいては死亡率の低下にも貢献していることが証明されてきました。
国によっては、本が薬と同じように扱われているのです。
そして、シャヒード・ベヘシュティー大学の研究チームは、オーディオブックにも同じ効果があると結論づけました。当然ここには、認知症やうつ病に対する効果も含まれると考えていいでしょう。
「病は気から」ということわざがありますが、オーディオブックはそのおおもとにある「気」の部分を安定させ、精神的な不調や病気から私たちを守ってくれる可能性を秘めているのです。まさに、高齢者のみなさんには打ってつけといえるのではないでしょうか。
親御さんをはじめ、あなたの身の回りに「健康であってほしい」と願う高齢者がいらっしゃったら、ぜひオーディオブックを勧めてください。アプリのインストール、コンテンツのダウンロード→再生などのスマホの操作ならびに、ワイヤレスイヤホンのBluetooth接続などの方法がわからない場合は、やさしく丁寧に教えてあげましょう。
ひとりでも多くの高齢者に、オーディオブックが浸透していくことを私は願ってやみません。