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生き方

精神科医が仏教に学んだ「怒りを簡単にしずめる方法」

名越康文(精神科医)

2022年09月30日 公開

 

「私は怒っています」と3回唱える

怒りに気づくことができれば、次は行によってその怒りを払い、心を落ち着かせていくことに取り組みます。

効果がわかりやすいのは、心のバランスを崩して感情に支配されそうになったときに、瞬間的に心の状態を整える「頓服薬」としての行です。ちょっとイラッとしたり、くよくよと悩んだりしたとき、深く深呼吸をするとちょっと気分が落ち着き、「よし、もうひと頑張りしてみようか」と気持ちが切り替わる、という経験を持つ人はたくさんおられるでしょう。

これはある意味では、深呼吸が「行」として機能したものと言えます。こうした「頓服薬」としての行というのは、いつでも思い立ったときに日常の中に取り入れることができます。

誰でも使えて、かつ一瞬にして怒りを払うことができる行を紹介しておきます。

それは、「私は怒っています」と唱える行です。これはスリランカ仏教のスマナサーラ長老が紹介されていた方法ですが、笑ってしまうぐらい簡単な行でありながら、その効果は抜群です。

日常の中で「しまった!怒ってるぞ......」と気づいた瞬間、「私は怒っています」と3〜5回、ゆっくりと心の中で唱える。これだけです。

「それだけ?ばかばかしい......」と言われそうですが、この行は騙されたと思ってやってみてください。驚くほど、効果抜群なんです。たいていの怒りは3回唱える中で、不思議なぐらい消えてしまいます。

 

ゴールではなく「プロセス」に集中する

また、日常の中に取り入れやすい行としては、掃除や洗濯、炊事といった家事を行にするのも有効です。これは勤めながら子育てをしている人など、家事に追われる毎日を送っている人にお勧めしたい方法です。

「掃除をしていると心が落ち着く」「アイロンをかけていると嫌なことを忘れられる」という人はけっこうおられますが、おそらく知らず知らずのうちに「行」として掃除やアイロン掛けをしているということだと思います。

こうした家事を「行」として取り組むときのコツは「ゴール」ではなく「プロセス」に集中すること。例えば拭き掃除だったら、「部屋をきれいにする」という目的をひとまず忘れて、「目の前のテーブルを拭き清める」という行為に集中するのです。

僕らは掃除をしているとき、だいたい「早くきれいにしないとお客さんが来たときに恥ずかしい」とか、「さっさとテーブルをきれいに拭いて晩ご飯を食べよう」というふうに、意識をあちこちに拡散させてしまっています。いわゆる「ながら」で作業をすることで、掃除に集中できなくなっているのです。

行として家事を行うときには、拭き掃除なら拭き掃除、アイロン掛けならアイロン掛けに集中する。そうすると心が落ち着いてきます。

こうすることで、結果として家事のクオリティも上がるはずです。例えば、しわが寄らないようにきちんとアイロンをかけるためには、一つひとつの所作を省略せず、丁寧にやることが必要です。

洗濯しわの入り方は一つひとつ違うでしょうし、素材も微妙に違う。アイロンの温度も、必ずしも一定ではありません。アイロンやシャツと自分の身体を一体化させるように集中してアイロンをかけると、アイロンもきれいにあてられるし、心も落ち着くので一石二鳥です。

こういった行を頓服薬的に上手に使っていると、ずいぶん日常の中で怒りを払い、静かな心を取り戻すことができるはずです。

 

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