
失敗を恐れず、安心して会話を楽しむために、リカバリー術を身に付けておきましょう。伝わる表現アドバイザーの山本衣奈子さんが解説します。(取材・文:加曽利智子)
※本稿は、『PHPスペシャル』2025年4月号より内容を抜粋・編集したものです。
失言しても大丈夫!
言ってはいけないことをうっかり口に出してしまい、その場の空気が凍り付いたり、一人になってから相手の顔を思い出して後悔したり......。コミュニケーションでの失敗は、誰にでもあるものです。
一方で、失言して嫌われるのを恐れるあまり、コミュニケーション自体が億劫になってしまう人も多いようです。しかし、一度失言したからといって、相手との縁が切れるわけではありません。失言しても諦めずに関係を修復する方法を探し、相手の気持ちに寄り添うことで、失言はリカバリーできます。
人と人との関係性において、特定の「正解」は存在しません。だからこそ、コミュニケーションは難しいのです。コミュニケーションの達人とは、失敗しない人のことではなく、たとえ失言をしてしまったとしても、それをリカバリーして、次のコミュニケーションにつなげられる人だと言えるのではないでしょうか。
ここでおさえておきたいのは、そもそも失言に悪気はないということ。失言が多い人の特徴を上に挙げていますが、中には、その人の長所となるようなものもあります。失言は、「相手を喜ばせよう」というポジティブな気持ちからも生まれうるのです。
自分の性格を把握し、失言しないように日頃から気を付けることはもちろん大切ですが、それにより自分の長所まで見失ってしまっては、元も子もありません。失言を予防する以上に注力すべきは、失言のあとのフォローです。
今回は、失言タイプ別にリカバリー術を紹介します。ぜひ参考にしてくださいね。
うっかり失言 タイプ5選
1. よかれと思っての余計な一言
会話をはずませたい、本音を伝えたい、励ましたい......。そんな気持ちから、よかれと思ってプラスした言葉が、「余計なお世話」「事情も知らないで......」と反感を買ってしまう、ありがちな失言パターン。すでに努力している人に対する「頑張ってね」など、頻繁に使っている言葉が、じつは失言であることも。
例:「前のほうが好きかも」「そんなの大したことじゃないよ」
2. 感情に任せた暴言
頭に浮かんだネガティブな言葉をそのまま口にした結果、相手を傷つけてしまうパターン。特に、怒りの感情をコントロールするのが苦手な人に多い失言です。感情がたかぶったまま発言し、冷静になってから「あんなこと言うんじゃなかった」と落ち込みます。
例:「あなたにはどうせ無理でしょ」「なんでいつもそうなの? 最低!」
3. 会話泥棒
「自分の知識や経験を披露したい」という気持ちを抑えきれず、相手の話が終わるのを待たずに自分の話を始めてしまうのも、立派な失言です。話をさえぎられた相手は、「軽視された」と感じます。
例:「そういえば、私もすごいことがあってね」「いやいや私だって」
4. 決めつけ&差別的な表現
無意識の偏見や無知が原因となり、決めつけた言い方や差別的な発言をしてしまうパターン。相手は「実態を知らないのに、決めつけないでよ」と不快感を覚えることに。
例:「専業主婦は自分の時間があっていいな」「女性なのに管理職なんて、すごいね」
5. 質問攻め
「相手のことを知りたい」「もっと仲良くなりたい」という思いが強く、質問を重ねすぎて相手を追い詰めてしまうパターン。距離が縮まるどころか、「あの人と話すのは、しんどい」と思われるリスクがあります。
例:「どこに住んでるの? 休日は何してるの? パートナーはいる?」
失言タイプ別 リカバリー術
ここからは、失言タイプ別に、「やってしまった」と思ったときにできる具体的なリカバリー術を紹介します。
1. よかれと思っての余計な一言のリカバリー術
●相手の気持ちを想像しよう
「髪型を変えて、明るい感じになったね。でも、前のほうが好きかも」。このセリフ、言う側は相手に親近感を抱き、褒めたうえで本音を伝えているつもりかもしれませんが、「でも」以降は余計な一言です。相手は「今の自分を否定された」と感じるでしょう。さらに「それって、あなたの趣味なだけでは?」と、怒りがわいてくる人もいるかもしれません。
余計な一言で不穏な空気が漂ったときに、「悪い意味じゃないよ」などと言い訳するのはNGです。まずは、素直に謝罪しましょう。続けて、自分の失言に対して相手が言いたそうなことを察知し、それを代弁します。
例に挙げた場合なら、「余計なことを言ってごめんね。否定されたと感じるよね。今のは完全に私の趣味だわ」といった具合です。
励ますつもりでかける「そんなの大したことじゃないよ」という言葉も、相手の状況によっては、「あなたにはわからないでしょ」とネガティブに受け取られてしまう可能性があります。
相手の表情が曇っていたら、「そうだよね。わかったようなことを言ってごめんね」と謝罪し、「真剣に悩んでいるのに、こんなふうに言われたくないよね」と共感の言葉をかけましょう。すると相手は「気持ちをわかってくれてる」と感じて、リカバリーができます。
2. 感情に任せた暴言のリカバリー術
●気持ちを冷静に説明して
「あなたにはどうせ無理でしょ」「なんでいつもそうなの? 最低!」など、相手の人格を否定するような発言は、攻撃性を含んでいます。言った側にどんな理由があったとしても、言われた相手は傷ついてしまいます。言いすぎたと思ったら、「感情的になって申し訳なかった」と、まずは真摯に謝ってください。
次に「聞くだけ聞いてもらってもいい?」と声をかけ、感情的になってしまった理由について説明します。「私が前に話したことが伝わってないようで、悲しかった」などと冷静に伝えると、相手の反応は変わってくるはずです。
ここでのポイントは、自分の気持ちを無視しないこと。ネガティブな感情をなかったことにするのではなく、落ち着いて言葉にすることで、自分自身もラクになるでしょう。
\感情的な失言を繰り返さないために/
怒りをそのままぶつけても、人間関係にプラスに働くことはほとんどありません。怒りをうまくコントロールできないがゆえに、ハラスメントやDVにつながってしまう場合もあります。
たかぶった感情をコントロールするには、少なくとも3~5秒ほどの時間が必要だと言われています。自分が怒りに任せて相手を攻撃していると気づいたら、5~6秒ほど黙り、冷静になりましょう。リカバリー術を覚えておくことは大事ですが、この種の失言は、繰り返さないことが自分のためにもなります。
3. 会話泥棒のリカバリー術
●時間をおいたフォローも効果的
人が話をしているときに「そういえば、私もすごいことがあってね」「いやいや私だって」と割り込んでしまう人は、意外と多いです。しかし、さえぎられた相手は、いい気がしないもの。話すことだけでなく聞くこともコミュニケーションであると心得てください。
相手の話を奪ったと気づいたら、「ごめん、まだ話が途中だったよね。さっきの話、そのあとどうなったの?」と、あなたから話題を戻すようにしましょう。その場で気づけず、別れたあとに「私ばかり話しすぎたかも」と不安になった場合は、次に会ったときに同様のリカバリーをすればOK。時間をおいてリカバリーすることにより、「私の話を覚えていてくれたんだ」と、あなたへの信頼度が高まるはずです。
4. 決めつけ&差別的な表現のリカバリー術
●無知を認めて教えてもらおう
「専業主婦は自分の時間があっていいな」「女性なのに管理職なんて、すごいね」。これらは一見、相手を褒めているようですが、「家事は仕事よりもラク」「管理職は男性」という偏見による差別的な表現です。失言したら、まずは「勝手なイメージで決めつけてごめん。今の言葉は失礼だね」と謝りましょう。
そして、「専業主婦じゃない私に、専業主婦のことがわかるはずないよね」「私の上司が全員男性だから、驚いてしまった」などと自分の無知や経験不足を認め、「実際はどんな感じなの?」と質問します。「教えてほしい」という態度を示すと会話がはずみ、関係が深まります。
5. 質問攻めのリカバリー術
●自分で自分をセーブして
質問はコミュニケーションの基本です。しかし、あなたの質問に対して相手が「う~ん」などと濁すような態度をとったら、「これ以上は踏み込んでこないで」というサイン。それを無視して質問を重ねると、相手を困らせてしまいます。特にプライベートな話題はデリケートなので、要注意です。
相手が言葉を濁したときは、「ごめん、この話はもうやめるね」と話題を打ち切ると◎。どんなに続きを聞きたくても、自分で自分にストップをかけてください。そして、いったん自分について話しましょう。自分の話をすることは、相手の警戒をゆるめ、話を引き出すきっかけにもなります。
【山本衣奈子(やまもと・えなこ)】
30社以上での勤務経験を活かし、独自の「伝わるように伝えるコミュニケーション術」を確立。2010年にE-ComWorks株式会社を設立し、プレゼンテーションプランナー、産業カウンセラーとしても活動している。著書に『「言ってしまった」「やってしまった」をリカバリーするコツ』(日本実業出版社)などがある。