
明治大学や早稲田大学などで述べ1万人以上のZ世代の指導に関わり、300以上の企業や行政機関でコミュニケーションスキルを教える「伝え方のプロ」である、ひきたよしあきさん。ひきたさんによれば、若手を動かすカギとなるのは、リーダーの「伝え方」だといいます。
本稿では「若手との話し方」について、書籍『若手はどう言えば動くのか? ~相手を「腹落ち」させたいときの伝え方~』よりご紹介します。
※本稿は、ひきたよしあき著『若手はどう言えば動くのか? ~相手を「腹落ち」させたいときの伝え方~』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。
新人教育に悩むミドル世代が急増中
●若手と共通の話題が見つからず、何を話したらいいのか分かりません
→話題を探すより「興味のあること」を聞くのが近道
かつての大学の教え子で30代半ばを迎えた男性が、久しぶりに私を訪ねてきました。いわゆる「ゆとり世代」第1期生。就職活動をしているとき、企業に入って「やっぱり、ゆとり世代は...」と言われるのが怖いし、つらいと言っていた男性です。その彼が、憂鬱な顔をしてやってきた。会社で新人教育を任されたものの、手を焼いているとのことでした。
「こんなのやる意味あるんですか」
「私には無理です」
「言うことコロコロ変わってませんか」
「やる気が出ません」
「教え方、下手ですね」
「もう、辞めたいです」
新人の口から出てくる言葉に、どう対応すればいいか分からないというのです。
「私の頃は、『ゆとり』とバカにされたくない一心で、会社の中に入っていこうという気がまだあったんです。でも、新人には、そういう気がないように見えます。『長く会社にいる気はない』と宣言し、『ここで自分のスキルアップにつながるものだけを学びたい』と堂々と言うんですよ。
先生には、私も新人も同じように見えるのかもしれないけれど、この10年は、明治維新やフランス革命のビフォア・アフターほどに違います。まったく、私のほうが辞めたくなりますよ」
若いとばかり思っていた彼の顔に、中間管理職の苦悩がにじんでいるようでした。
好きな歌もバラバラ...今は「共通の話題」が存在しない時代
諸説ありますが、大ざっぱに世代を整理しておきましょう。まずZ世代とは米国由来の概念で、X世代、Y世代に続く、1990年代半ば生まれ以降の世代を指す言葉です。
X世代 1965年生まれから
Y世代 1980年生まれから
Z世代 1995年生まれから
これとは別に、日本でも「就職氷河期世代」( 一般的には 1970 〜1982年頃生まれ)や「ゆとり世代」( 一般的には1987 〜2004年頃生まれ)といった区分けが存在します。
冒頭の男性は1987年生まれで、Y世代であり、ゆとり世代ということになります。インターネット世代ではありますが、まだテレビや雑誌が主な情報源として活用された時代。「失われた20年」を生きてきた彼らには、まだ
長く職場に勤めてキャリアを積む気持ちがあり、周囲との協調性も大切にする意識があります。しかし、Z世代のなかには、会社をスキルアップのための1つの足がかりととらえ、無駄な時間や人間関係を極力排除したがる人も多いといわれています。
「なんとか共通の話題でもあればいいんですけど」と言う彼に私は1つの資料を見せました。自分が現在勤める大学で学生に対して調査した「自らのモチベーションを上げる歌」というアンケート結果です。資料を手にしたとたん、彼が叫びました。
「知ってる歌が、ほとんどない!」
アニメ、K―POP、地下アイドル、個人的な「推し」...しかも40人近い学生が1人として同じ歌を書いていません。私は、彼に言いました。
「共通の話題を探すことが、極めて難しい時代なんだよ。爬虫類が大好きな子もいれば、木製シャープペンシルばかり集めている子もいる。同年代でこの調子なんだから、10年以上も年上の君が、『共通の話題』を見つけるのはかなり難しいよ。しかもプライベートな話は嫌がるしね」
彼は「打つ手なしですね」と、頭の後ろで手を組みました。
「何も知らない私に教えて」と頭を下げる
「先生は、今の学生たちとどうやってコミュニケーションを取っているんですか」。しばらく考えていた彼が、体を起こして聞いてきたので、私はこんな話を伝えました。
「1つだけ、いい方法がある。まず、講義の冒頭で、『私は、あなたたちを知らない。どんな価値観を持っているのか、何に興味があるのか、全く分かっていない。だから、何も知らない私に教えてほしい。私は教師ではあるけれど、あなたたちのほうがよく知っていることが多いと思う。そこは面倒がらずに教えてほしい』と言って頭を下げちゃうんだ。
先生とかリーダーとか、そういうもので得られる自尊欲求みたいなものを捨てる。相手の価値観に興味を持つ。相手の性格を理解できなくても、面白がっている様子を見せる。そうしていると、こっちから話題を見つけなくても相手がだんだんと話し出すもんだよ。
話を聞いたら、できれば多くの人がいるところで、『面白いなぁ』と言うんだ。『あ、リーダーが、新人の話を面白がっている! 』と周囲に示すことも大事なんだよ」
相手が「気持ちいいな」と思って話しているのはどこか
彼は、私の話を真剣に聞いていました。
「もしかすると、僕は指導を任されたことがうれしくて、なにげなく圧をかけていたのかもしれないないなぁ。自尊心を捨てるの、大事ですね」
と言いました。それから私は、少し相手が話すようになってきたら、その話しぶりから相手が「気持ちいいな」と思って話している箇所を探す。根気よく聞いていれば、必ず「あぁ、気持ちよさそうだな。舌がよく回っているな」と思うところがある。そこが「共通の話題」になると教えました。
「すぐに見つからないとは思うけど、じっくり探してみます。何よりも、聞くことが大事なんだとよく分かりました」
そう言った男性は、少しだけ学生時代に戻ったような生気のある顔になっていました。