
「キャリアコンサルタントの仕事」の範囲は、明確に定義されていません。名称独占資格であるため、倫理綱領に反しない限り、どのような働き方を選んでも問題なく、仕事の内容も自由です。
森田さんの著書『キャリコン1年目の教科書』によると、キャリアコンサルタントをものにするためには、①自己理解、②仕事理解、③啓発的経験が初めのステップとして必要だといいます。本稿では、②仕事理解、③啓発的経験の方法についてご紹介します。
※本稿は、森田昇著『キャリコン1年目の教科書』(インプレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
仕事理解は「モデリング」で進める
自己理解をサラッと終えた後は、私の推しメン(理論家)であるバンデューラ博士の「モデリング理論」に従って仕事理解を進めていきます。この理論は「社会的学習理論」と呼ばれ、自分が直接体験していなくても、他者の体験を観察・模倣(=モデリング)することで学ぶことができるというものです。学科試験でもよく出題される理論なので、覚えている人も多いかもしれませんね。
モデリング理論は、代表者を観察することで他の大多数の人が学習できると説いています。つまり、自己理解で考えた3つの質問の答えをすでに実践している先達を観察することで、効率よく仕事理解が進められるのです。先達の経験を通じて、体系的に仕事について学べるだけでなく、どうすればその人のように働けるのかも自然とイメージできるようになります。
ということで、4つ目と5つ目の質問です。
【Q4】あなたがモデリングする人は?
【Q5】その人はどんな仕事をしていますか?
この質問に答える前に、「キャリアコンサルタントの仕事」についての思い込みや認知の歪みを取り除き、過度の一般化を避けて視野を広げるためにも、次の3つを覚えておいてください。
①「キャリアコンサルタントの仕事」は明確に定義されていない。つまり、何でもいい。
②「キャリアコンサルティング」は技術であって、商品やサービスではない。仕事に使えばそれでいい。
③「キャリコンとして」と考える必要はない。
①については、モデリング対象がどんな仕事をしていても構わない、ということです。前述した通り、何を仕事にしている人をモデリングしても、倫理綱領に反しない限り自由です。私たちの資格の枠に囚われず、幅広い視野で考えてみてください。
売れっ子コーチや、著名なカウンセラーでもいいです。キャリアとはまったく他分野の先生もアリです。現在YouTubeやXに力を入れている私は、どちらも伸ばしている士業の先生たちをモデリングしています。
②については、キャリアコンサルティングやキャリア面談を仕事にしなくてもいい、ということです。私自身、技術として仕事に使っていますが、面談でお金を得ているわけではありません。「キャリアコンサルティングは技術であって、商品やサービスではない」は決して忘れないでください。これは多くの人が誤解しやすい点なので、絶対に覚えておいてください。
技術を磨くのであればキャリアコンサルティング技能士2級や1級を目指すこともできますが、技能士になったから仕事を得られる、仕事が来るわけではないのです。「キャリアコンサルタントの仕事=面談」では決してなく、技術研鑽と仕事の作り方はまったくの別モノです。
③については、モデリングの対象はキャリコンに限定するものではない、ということです。あなたがキャリコンを目指した理由が、資格がなければ実現できないものであれば、私たちの先達をモデリングすればいいでしょう。しかし、そうでなければどの分野の先達でも構わないのです。
「キャリコンとして」と考えると、かえって視野が狭まります。肩書や資格に自分を限定してしまう危険性があるからです。肩書や資格はあくまでツールであり、私たちの本質を定義するものではありません。
「自分<資格」に決してならず、資格の枠組みの中で生かされてしまうキャリアから抜け出すためにも、「自分自身であること」を大切にして、仕事を通じて自分の価値を発揮することを考えてください。本書ではこの後、「キャリコンとして」という言葉は使いません。NGワード指定です。
私自身、資格取得の理由は「中小企業診断士の活動に活かす」ことだったので、「キャリア面談を仕事にしよう」、と考えたことは一度もありませんでした。独立当初にモデリングしていたのも他分野の先達でしたし、今でもそうです。
もし「モデリングの対象がいない、理想が高すぎる」と嘆くのであれば、正直なところ、それはかなり険しい道になってしまいます。先達がいない仕事をゼロから作り出し、市場を開拓するのは非常に難しいです。そのような挑戦は、特別な覚悟がない限り、オススメできません。
逆に、「モデリングの対象がいない、だけど特に気にしてない」と言い切ってしまうのであれば、それは自己理解・仕事理解が足りていない証拠です。
「キャリアコンサルタントの仕事」をするのであれば、必ずQ1〜Q5の答えを出すことで、誰かしらモデリングの対象にしてください。そうでないと、仕事の枠がいつまでも定まらず、この後の啓発的経験という行動に移れません。それはあまりにもったいないことです。
モデリングの対象は、誰でも、複数人でも構いません。あなたが憧れている人、なりたいと思う人、目指したい姿の人を、思い浮かべてください。そして、その人たちがどんな仕事をしているのか、実際にどんな行動をとっているのかを、仕事理解として調べてみましょう。
啓発的経験は会って、聴いて、受けてみる
モデリングの対象を決めて調べても、実際にその人がどんな仕事をしているのか、どんな行動をとっているのかは、ウェブ検索だけではわかりにくいものです。SNSを見てもピンとこないし、YouTubeを眺めてもよくわからない。これ、モデリングあるあるです。
憧れの人が何を仕事にしているのか、なりたいと思う人がどんな想いを抱いているのか、目指したい姿の人がどうやって今の姿になったのか――その情報が欲しいのに、ネット上では見つからないことが多い。あっても、理解しきれない。
これを解決するのが、6つ目の質問です。
【Q6】あなたのモデリングの対象と、どこで会えますか?
遠くから眺めているだけでは、その人の本質はわかりません。SNSでつながっているだけ、YouTubeを見ているだけでは、得られる情報は表面的なものに留まります。会うのが最も手っ取り早い方法です。対面でなくても、オンラインでもOK。とにかく会って話をしてみましょう。
どんな考えで、どんな気持ちで、どんな理由で今の仕事をしているのか、キャリアコンサルティングの技術を活かしてじっくり聴いてみるのです。信頼関係(ラポール)を築きながら色々と尋ねてみてください。その人が主催するイベントやセミナー、コミュニティに参加するのも良い方法です。
最後に、7つ目の質問です。
【Q7】会ってみて、どんな話が聴けましたか?
この質問に答えるための最適な方法をお伝えします。それは、モデリングの対象が提供している商品やサービスを購入することです。もし相手がキャリコンなら、キャリアコンサルティングを受けてしまうこと。話が聴けるだけでなく、自分自身の自己理解や仕事理解まで深めてくれます。これほど素晴らしい啓発的経験はありません。
技術を実際に体験することで、モデリングもさらに進みます。注意点としては、必ずお金を支払ってください。そうすることで、自分も相手も本気になります。元を取るために全力で取り組めるからです。
私は、モデリングしている人たちの商品やサービスを購入して試していますし、高額な講座を受講することもあります。これは自己投資だと捉えています。独立して7年間で8桁円近く自己投資しましたが、それらはすべて身になっていますし、何よりネタになります。費用対効果は非常に高いので、オススメです。
もし、あなたが「モデリングの対象と会うのが難しい」、「話を聞くのは恐れ多い」、「だって大先生だもの、遥か上の上司だもの、社長だもの」と感じるのであれば、一度「探求の螺旋」の自己理解に戻ってみましょう。特に2つ目と3つ目の質問が大切です。1年後や3年後でも、まったく届かなそうな人をモデリングしても、その人の行動原理を理解するのは難しいからです。
もっと身近な、自分より一歩か二歩進んでいる人をモデリングの対象として、「探求の螺旋」をもう一度回してみてください。
キャリア形成とは、自分自身にとっての「何となくの方向性」を見出しつつ、試行錯誤しながら将来の道について、なるべく精度を高めつつ意思決定していく行為に他ありません。この「何となくの方向性」を未来予想図として描くのが、「探求の螺旋」の一巡目なのです。今から1ヶ月以内にやってしまいましょう。