1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 「あなたの助言は求められていない」悩み相談をされたら思い出したいこと

仕事

「あなたの助言は求められていない」悩み相談をされたら思い出したいこと

豊島晋作(ニュースキャスター)

2025年06月19日 公開

「あなたの助言は求められていない」悩み相談をされたら思い出したいこと

誰かに悩み相談を受けたら、「何とかしてあげたい」とアドバイスする方は多いでしょう。しかし、実は多くの相談者は、「助言を求めていない」といいます。

テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作さんが、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「伝える技術・聞く技術」について徹底解説した書籍『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』より紹介します。

※本稿は、豊島晋作著『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

「助言」せずに聞く

人の悩みなどを聞いたとき、つい聞き手は助言をしたくなります。誰でも年を取るほどその傾向が強く出てきます。

「性格のきつい課長から仕事を押し付けられて悩んでいる。でも上の部長はその問題に気付いていない」という相談を受けたらどうするか。思わず「部長にちゃんと状況を話したほうがいい」という助言をするかもしれません。

しかし、多くの場合、こうした「すぐ思い付くような解決策」は全く求められていません。そもそも話し手もそんな解決策は分かっています。それでもなお話したいのは、そうできない事情があるか、あるいは単に話を聞いてもらいたい、苦労している自分を承認してほしいという欲求があるからです。

基本的に、あなたの助言など8割は求められていないと思ってください。

正直、これに統計的な根拠はありません。実際は「あなたの助言は半分以上は求められていない」かと思いますが、おせっかいな人はとかく助言をしがちなので、慎重になる意味で「8割は求められていない」と捉えておいたほうがいいでしょう。

助言にはデメリットがあります。相手の話を聞きながら「こうすればいいのに」と助言の中身を考えていると、つい上の空になってしまうからです。それが話し手にバレてしまい、会話がすれ違ったりして「ああ、この人は話を聞いてくれていないんだ」という失望を生んでしまいます。

だから、まずはしっかりと話を聞きましょう。そして、相手が話し終わっても、うなずきながらすぐには何も言わない。その間、じっくりと相手の言葉を受け止めるのです。これには次のような4つの効果があります。

①自分の浅はかな反応を防ぐ
②すぐに下手な助言をしないようにする
③相手の話を自分の中で咀嚼する時間をとる
④話を重く受け止めていることを相手に示す

なので、相手が話の核心部分を話し終えたときは、まず「そうなんだ……」とうなずきながら自分の中で相手の意図を咀嚼し、その後で「……本当に大変だったね」と返答するのがよいと思います。

会話における沈黙は、こちらが主導権を取り戻したり、不安を抱かせて相手の勢いをそいだりする力があるのですが、聞く場面では、とにかく自分が相手の話を受け止めていることを全力で示すことに使います。

そして次に行うのが、助言をするかしないかの判断です。

もし相手が、「ちょっと聞いてほしい」「もう仕事には疲れたよ」などという感情的な言い方で相談してきた場合は、やはり単に話を聞いてほしいだけの可能性が高いでしょう。余計な助言は控えるべきです。相手が求めているのは、苦労への共感や気持ちの整理です。

しっかり聞きながら受け止めて、相手の気持ちを整理し、または分解して再び組み立てるお手伝いをすることに徹するべきです。特にこれは夫婦間の会話でも重要です。

そして、冒頭で「あなたの助言など8割は求められていない」とお伝えしましたが、相手の話は「残りの2割」で、実は助言が求められている可能性もあります。「どうすればいいと思う?」「どちらがいいと思う?」と具体的な解決策について質問されたとき、あるいは「アドバイスがほしい」と直接的に言われた場合は、素直に助言すべきです。

どちらか分からないときは、相手に「話を聞くだけで大丈夫? それとも何かヒントになりそうなことがあれば話そうか?」と直接聞くのもありだと思います。

 

聞く場所、伝える場所も重要

ちなみに、相手の悩みや相談を受けるときは、騒がしい場所や散らかっている部屋など、聴覚や視覚に入る情報量が多い場所は避けるべきです。

なぜなら、話し手が「自分の大切な話が邪魔されている」「ちゃんと受け止めてもらえていない」と感じてしまうからです。これは、映画館で大事なシーンを見ているときに、周りがガヤガヤとうるさかったり、スマホの画面がチカチカ光っていたりすると、肝心の映画に集中できなくなるのと同じです。話し手にとって、悩みを打ち明ける時間は、自分の心の中にある大切なシーンを見せる瞬間です。だからこそ、その時間を邪魔しない環境を整えることが大事になります。

理想的なのは、静かな会議室、落ち着いた喫茶店や飲食店など、シンプルで整った空間です。こうした場所なら、話し手も安心して話を続けられ、聞き手も相手の言葉にしっかり耳を傾けることができます。

なお、場所選びが大事なのは、伝えるときも同じです。大事なことを伝えるときは、同じように騒がしい場所や散らかった部屋、内装が派手な部屋などは避けるべきでしょう。視覚的・聴覚的な情報が多くなってしまい、あなたの伝えるメッセージが薄まってしまうからです。

伝えたいメッセージがあるなら、余計な視覚・聴覚情報を減らし、相手が「あなたの言葉だけに集中できる環境」をつくることが大切なのです。

ビジネスにおいても、適切な空間を選ぶことは、相手への敬意を示すことです。取引先との会食では、どんな飲食店を選ぶかによって、「この相手をどれだけ大切に思っているか」が無言のうちに伝わります。

そして「聞く」という行為は、「全身運動」です。

冬ならコートを脱ぎ、テーブルに一緒に座り、注文したコーヒーや紅茶がきたらまず相手にすすめる。少なくとも話し手より先に口をつけない。そして、パソコンもスマホもカバンにしまい、視線も姿勢も話し手に向ける。これらの動作すべてが、「今からあなたの話を最優先で聞きますよ」という無言のメッセージになります。メールやLINEが入ったり、電話がかかってきたりしても、すべて無視します。あくまで、その瞬間は相手の話が最優先だと示すことが大切です(これも夫婦間の会話で重要なことかもしれません)。

相手の話を全身で聞くためにも、そして相手に「あなたの話をしっかり受け止めます」という印象を残すためにも、環境だけでなく、自分の態度や姿勢を改めて意識してみてください。

 

【豊島晋作(とよしま・しんさく)】
1981年福岡県生まれ。テレビ東京報道局所属の報道記者、ディレクター、ニュースキャスター。現在、WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスター。2005年3月東京大学大学院法学政治学研究科修了。同年4月テレビ東京入社。政治担当記者として首相官邸や与野党を取材した後、11年春からWBSディレクター、マーケットキャスターを担当。16年から19年までロンドン支局長兼モスクワ支局長として欧州、アフリカなどを取材。ウクライナ戦争や日本および世界経済の動きなどを解説した「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」「豊島晋作のテレ東経済ニュースアカデミー」などの動画はYouTubeだけで総再生回数2億回を超え、大きな反響を呼んでいる。著書に『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか』『日本人にどうしても伝えたい教養としての国際政治』(ともにKADOKAWA)がある。

 

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×