
映画の中で、ポイントとなるシーンによく登場する図書館。恋愛映画では、本を通じて二人の距離が近づく場所や、デートの場所。サスペンスやアクションでは、司書のアドバイスで事件が解決、ときには本が武器になることも。
そんな図書館や司書が登場する映画のことを、研究者のあいだでは「図書館映画」と呼んでいるそうです。
本稿では図書館映画の1作「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」を題材に、図書館の魅力をつのだ由美こさんに解説して頂きます。
※本稿は、つのだ由美こ著『読書を最高のエンターテインメントに 本が大好きになる図書館の使い方』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。
ニューヨーク公共図書館の幽霊
夏の定番だった心霊番組が、いまや季節に関係なく人気です。
彼らが向かうのは、だいたいトンネルや病院跡など、いかにも怖い心霊スポットばかり。ですが、図書館も案外...。
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フィービー・スペングラーは、ゴースト退治のプロ「ゴーストバスターズ」の一員として、ニューヨークを駆け回る日々を送っています。
あるとき、友人の元ゴーストバスターズのスタンツ博士が営むオカルト鑑定店に、一人の男がやってきました。男が持ち込んだのは、先祖代々伝わるという骨董品です。
それは、象形文字に覆われた真鍮の球で、悪霊の封印に使われるものでした。
スタンツ博士は念のため、霊気を感知するPKEメーターで調べてみました。すると凄まじい霊エネルギーを放出、メーターを壊すほどの威力です。
その原因を探るため、フィービーと博士はニューヨーク公共図書館へ。図書館に勤めている民俗学者・ワルツキー博士に球を見せると、あわてて地下書庫から古代遺跡の本を取り出してきました。4000年前の遺跡にも同じ球が彫刻されていたのです。
ところが、あと少しで謎が解けそうというところでアクシデントが発生。フィービーたちは、急いで図書館の出口に向かって走っていきました。
しかしスタンツ博士だけ、ふと書庫の通路で足を止めます。恐る恐る本棚を覗き込むと、そこには本を読んでいる幽霊が...。
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幽霊が出る図書館を覗いてみよう
じつはこのニューヨーク公共図書館の幽霊は、1984年の「ゴーストバスターズ」1作目にも登場しています。幽霊なので、ずっと同じ場所にいるのですね。
では、現実の図書館でも幽霊は出るのでしょうか?
もちろん出ます。たとえばアメリカの図書館では、ウィラード公共図書館(インディアナ州)が有名。1885年に設立された州で最古の図書館で、長年地元の人たちに愛されているのですが、怪奇現象が頻発しているのです。ニュースや超常現象番組でも取り上げられ、1970年代には著名な心霊研究家ウォーレン夫妻も来館しています。
エド&ロレイン・ウォーレン夫妻は、映画「死霊館」シリーズのモデルになった人物です。霊能力者のロレインは「子どものお話の部屋」に入ると、トランス状態に陥りました。そのとき彼女の前に現れたのは、水の中を見つめる女性。どうやら図書館ではなく、土地に憑いている者だったようです。
ロレインに限らず、この図書館では不思議な体験をした人が多くいます。
髪や頬を触られる、突然香水の匂いがする、本が棚から飛び出て落ちる、机に押し込んだ椅子が振り返ると引き出されている。閉館後、誰もいないはずなのに歩く音や蛇口をひねる音がする...。
ある夜は図書館の警備アラームが鳴り、警察官が駆けつけました。しかしよく調べても、なかには誰もいません。
ところが、外で待機していた警官は、窓辺に立つ男女をはっきり見たというのです。
さらに、この図書館ではよく現れる“The Grey Lady”という有名な幽霊がいます。
ドレス姿で灰色のヴェールをまとった幽霊で、図書館の改装中には、司書の家にまでついてきました。
ふつう、こんなことがあると隠そうとしますよね。でも、この図書館では、幽霊がよく出る場所にウェブカメラを設置して、館内の様子を公開しているのです。
図書館のホームページのメニュー「Ghost Cams」(https://www.willardlib.org/)で見ることができます。もちろん、ロレインが反応した「子どものお話の部屋」も。
ゴーストハンター道具を貸す図書館
けれど、せっかくなら幽霊とコミュニケーションしたい。そんな利用者の要望に応えて、アメリカでは、ゴーストハンター道具を貸し出す図書館が増えています。
道具セットの内容は、超常現象でお馴染みの電磁場を測定するEMFメーター、コールドスポットがわかる温度計、EVP(電子音声現象)をとらえるスピリットボックス、音声レコーダー、赤外線モーションセンサー、振動を計測するジオホン...。
つねに在庫がないほど人気です。その理由の一つに、本作「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー 」の影響も大きいのだとか。
また、司書がこの道具を使っておこなう「図書館のゴーストツアー」も大好評で、館内ではよくEMFメーターに反応があったり、不思議な声が聞こえるのだそうです。
私に似た"何か"
このようにアメリカの図書館では、割と幽霊がいることを大っぴらに公表しているのですが、日本の図書館では逆の傾向です。
でも私の経験上、いままで働いた大学図書館すべてに幽霊の目撃談はありました。そして、私の身にも不思議なことが。
ある日、私が地下の書庫で作業をしていたときのこと。
作業を終えて4階のレファレンスカウンターに戻ってくると、目録担当の司書2人がカウンターの横に立っていました。そして、階段を登って帰ってきた私を見るなり、ギョッとした顔をして「ずっとここにいたよね?」と聞いてきました。
「いいえ。いままで30分以上、地下の書庫にいましたよ」と素直に答えると、2人は絶叫。
なぜなら、2人はカウンターと事務所を隔てるガラス越しに、座っている私の後ろ姿をずっと見ていたからです。
「ほかの司書が留守番をしていたか、学生がイタズラで座ったんじゃない?」と私が笑うと、2人は「絶対つのださんだった!」と怒って、本人がいくら否定しても信じてくれません。彼女たちはかなり怯えていました。
けれど、じつはこれが初めてではないのです。働く先々の図書館で同じ現象が起きます。そのとき、同僚が決まって言うのは「絶対つのださんだった」。
ときおり閲覧室や書庫に現れる、私に似た"何か"。
もし図書館の本棚で司書を見かけたら、ご用心。
それはもしかすると、本物ではないかもしれません。