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「まずはトライしてみることだ」 学校図書館で借りた本から風力発電をつくった14歳

つのだ由美こ(大学図書館司書)

2025年07月01日 公開

「まずはトライしてみることだ」 学校図書館で借りた本から風力発電をつくった14歳

映画の中で、ポイントとなるシーンによく登場する図書館。恋愛映画では、本を通じて二人の距離が近づく場所や、デートの場所。サスペンスやアクションでは、司書のアドバイスで事件が解決、ときには本が武器になることも。

そんな図書館や司書が登場する映画のことを、研究者のあいだでは「図書館映画」と呼んでいるそうです。

本稿では図書館映画の1作「風をつかまえた少年」を題材に、図書館の魅力をつのだ由美こさんに解説して頂きます。

※本稿は、つのだ由美こ著『読書を最高のエンターテインメントに 本が大好きになる図書館の使い方』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。

 

電気を起こす風

何かを生み出そうとするとき、必ずしも準備万端とは限りません。アイデアや材料、資金や人脈、場所が足りない...。そんなときこそ、頼りになるのが図書館です。

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2001年、アフリカのマラウイ。農業を営むカムクワンバ家の息子・ウィリアムは、壊れたラジオの分解や修理が得意な14歳。廃品置き場で電池や銅線などの部品を集めるのが好きでした。しかし、大雨が降って以来、マラウイの天候が不安定に。

大地はカラカラに乾燥し、一家の畑の収穫量が激減します。ウィリアムの学費も支払いができなくなり、ついに学校を退学することになりました。
しかし、ウィリアムはどうしても勉強がしたい。とくに、なぜ自転車のライトはペダルを回すと点灯するのか、その仕組みに興味を持っていたのです。理科の先生から聞いた「ダイナモ」について調べてみたいと思っていました。

そんなウィリアムの熱意に負けた理科の先生は、特別に学校図書館を使わせてあげることに。司書の協力のもと『エネルギーの利用』という本に出会います。
ところが、マラウイを大旱魃が襲い、深刻な飢饉が発生。ウィリアムの家族も日々食べるものに困っており、命の危険がせまっていました。

そのとき、ウィリアムはいいアイデアを思いつきます。風力発電を使ってポンプで井戸水を汲み上げ、乾いた畑に水を引くのです。そうすれば乾季でも栽培ができ、収穫は2倍になります。図書館に行って司書に計画を打ち明けると、さっそく本を参考に独学で風車を作り始めるのでした。
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風車が何なのかも知らない状態だった

この作品は、主人公のウィリアム・カムクワンバ著『風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』(文藝春秋)を元に映画化したものです。

当時、マラウイでは人口のわずか2%しか電気を使うことができず、世界でもっとも貧しい国の一つでした。そんな中、独学の知識と廃品の部品を使って風車を作り、自家発電することに成功します。

このニュースは世界に伝わり、ウィリアムは国際会議「TEDグローバル」に招待されて、2013年にはタイム誌の「世界を変える30人」に選ばれ、一躍有名人になりました。その結果、アメリカのダートマス大学にも進学することができました。

その道筋を作ったのは、学校図書館の女性司書の役割が大きかったようです。
風力発電が完成した後、彼女は村に見に来ました。そして、風車の話を図書館に資金を出しているNGOに伝えた結果、ジャーナリストがウィリアムの功績を報じて、その後の大学進学につながったのです。

司書のシケロ先生のインタビューによると、ウィリアムがよく借りていたのは、まさに映画にも登場する『エネルギーの利用』と『物理学入門』、英文法の本です。難しい言葉は司書に質問し、辞書を引きながら読んでいました。

最初、ウィリアムは風車を作っていることをすぐには司書に言いませんでしたが、あまりにも頻繁にこの本を借りているのが気になって、理由を聞いてみました。

すると、ウィリアムが「この本は僕を助けてくれるんだ」と、風力発電について打ち明けたのです。じつは、風車を作るきっかけになった『エネルギーの利用』との出会いは偶然でした。本棚の奥に押し込まれて、ほかの本に隠れていたのを、ウィリアムが引っ張り出して見つけたのです。

当時、ウィリアムは風車が何なのかも知らない状態でした。でも、その本を読んで、風力発電と自転車のダイナモが頭の中で結びついたのです。そのとき、自分で風車を作ろうと決意しました。彼は次のように語っています。

「図書室の本に載っていた風車群の写真は、僕にアイデアを与えてくれ、飢饉やさまざまな困難は、僕にインスピレーションを与えてくれた。そんなふうにして、僕のこの素晴らしい旅は始まったのだ」

 

ビジネス支援で野望を実現しよう

このように何かを生み出そう、事業を立ち上げようとする方に対して、公共図書館では「ビジネス支援(相談)」というサービスをおこなっています。

具体例を出すと「飲食店を開業したい。参考になる資料が欲しい」「健康食品の特殊な原材料を仕入れたい。取り扱っている会社はどこ?」「大阪市平野区〇〇の土質・地盤の固さを知りたい」「美容室を開業したい。お店の場所をどうやって決めたらいい?」「食品加工のため、柑橘類の苦味成分を除去する方法を知りたい」など、さまざまです。

ビジネス支援に積極的な鳥取県立図書館が中心となって「図書館で夢を実現しました大賞」も開催しています。
受賞者には、図書館を活用して夢を実現するまでのストーリーを、マンガにしてプレゼントしています。事例がわかりやすく描かれているので、興味のある方は「図書館で夢を実現しました大賞」で検索してみてください。

受賞した事例の中に、CTやMRIなど医療画像の遠隔診断事業をしている株式会社ワイズ・リーディングという企業があります。
熊本県立図書館のビジネス支援を活用して、最終的に熊本大学と富士フイルムメディカル株式会社と連携するまでにいたりました。

図書館に相談することで、それまで読んだことのなかった分野からアイデアが生まれたり、課題を解決するヒントを入手できたりしたのだそうです。

ただ、ビジネス支援サービスは実施している図書館が限られますので「地域名 ビジネス支援(またはビジネス相談)」などで調べましょう。
もちろん大人だけでなく、学生も利用できます。14歳だったウィリアムが、図書館を使って風力発電を実現したように、何かを生み出したい方は、ぜひビジネス支援サービスへ。

彼の著書は最後、この言葉で締め括られています。
「何かを実現したいと思ったら、まずはトライしてみることだ」

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