ハラスメント加害をしやすい人には、いくつかのタイプがあると社会保険労務士の村井真子さんは指摘します。その一つとして挙げられるのが「自己中心的な考え方をする人」です。本稿では、介護現場で実際に起きた事例を書籍『職場問題ハラスメントのトリセツ』より解説します。
※本稿は、村井真子著『職場問題ハラスメントのトリセツ ~窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)より内容を一部抜粋・編集したものです
自己中心的な考え方をする人
自己中心的な考え方をする人は、チームによる成果であっても自分の貢献度が高いと感じ、一方で成果が出ないと部下の貢献が低いと感じがちです。また、自己反省の態度が薄く、他責的な言動によって周囲のモチベーションを下げることもあります。自分に都合のいい人材をひいきしたり、都合の悪い情報を伝えてくる人材には冷たく応じることもあります。
このような考え方によって、一部の人材に業務負荷をかけたり、自分の都合が優先されるように業務フローを組み替えたりすることもあり、間接的にハラスメントを起こすリスクを抱えています。
[典型的な行動例]
▼ 自分の怒りや困惑が生じる原因を第三者のせいにする。
▼ 部下の手柄を横取りしたり、失敗を部下に押し付けたりする。
▼ 自分は仕事ができる、会社に必要な人材だと根拠なく思いこんでいる。
部下が相談をしても受け流し、対応をしてくれない上司
[相談]
私は介護施設で働いています。最近入所したある利用者から、ほぼ毎日、セクハラを受けています。担当を変えてほしいと何度も伝えているのですが、施設長は「トモカちゃんが好きなんだよ。おじいさんなんだし、許してあげたら」と何もしてくれません。
さらに、「それって自分はこんなに好かれてすごいっていう自慢なの?」と変に受け取られ、「あなたの介護に技術があるわけじゃないからね。若いからだから。調子に乗らないでね」とことあるごとに言われて困惑しています。
同僚に相談しても「利用者さんから好かれていいじゃん。施設長のいうことは無視しておけばいいよ」と受け流されてしまい、自分が自意識過剰なのかとだんだん不安になってきました。私はここで働き続けても大丈夫でしょうか。 トモカ(30代・女性)
トモカさんは複数拠点を展開する法人経営の介護施設で働いています。特定の利用者(男性)から、日常的に腕や腰を触られたり、抱きしめられるといった身体接触を受けています。介助の場面で触れるのは当然だと理解していますが、そうではないときも触れたがる利用者に対し、トモカさんは嫌悪感を抱いています。
「やめてください」と直接、何度も伝えていますが、利用者も含め周囲からはほほえましいこととして捉えられてしまっています。施設の管理責任者である施設長に相談しても、対応してくれるそぶりがありません。
近年、介護施設におけるハラスメントは社会問題になっています。平成三一年の政府調査では、介護現場で利用者本人からハラスメントを受けたことがあるかの設問に、介護老人福祉施設職員の7割以上が「ある」と答えました(注1)。
ハラスメントを行う利用者には加害意識がないことも少なくありません。高齢者である利用者が行為者になっている場合は、認知症等の病気や疾患によって判断力が低下していることもあります。しかし、いかなる状況であってもハラスメントは許容されるべきものではなく、組織的に対応すべき問題です。
トモカさんは将来に不安を感じて受講したキャリアセミナーで前述の相談を寄せました。
トモカさんは施設長が相談にまともに取り合ってくれず、逆に施設長から責められる状況になっています。同僚もまた、利用者のセクハラや施設長の言動を無視することを助言しており、現在の職場がトモカさんにとって安心安全に働ける環境ではないことが案じられます。
施設長からトモカさんへの言動は適切なものではありません。「若いから」「技術があるわけではない」という言葉はトモカさんの仕事ぶりを否定し、人格をも傷つけるものです。こうした心理的負荷が生じ得る言葉が繰り返されることは、パワハラとして認められる可能性がかなり高いものと考えられます。
また、セクハラを受けていることを知っていながら放置している状態も大きな問題です。施設長は本来、介護施設を運営する法人の責任者と連携しながら、事実確認のための調査や是正措置、加害利用者への注意などの対応を講じるべきでした。
トモカさんからの相談後も特段の対応を取っていないのは、職場環境整備義務違反で債務不履行にあたると言えます。
トモカさんはこうした状況を理解すると、安心した顔で退職を決断しました。まずは、介護施設を統括する運営会社のハラスメント対応窓口に一報する方法もありますが、組織が変わるには時間もかかります。それを待つよりも自分の心身の健康を優先したいというトモカさんの思いは当然のことでした。
このように、法人や事業所として適切に相談を扱わないことは、労働者の流出につながります。トモカさんの相談について、歪んだ受けとめをする施設長の考え方は問題であり、より深刻なハラスメントの温床になりかねないリスクがあります。このような環境で勤務し続けるよりは、離脱を選ぶトモカさんの選択は合理的であるでしょう。
注1: 「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」厚生労働省(株式会社三菱総合研究所への委託事業)
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947359.pdf








