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沖縄発の児童書が描く“本土とは違う日常” 「教科書に電車が出てくるのが不思議だった」

PHPオンライン編集部

2026年06月02日 公開 2026年06月03日 更新

装画:しらこ
装画:しらこ

YA(ヤングアダルト)小説作家・福木はるさんの最新作『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』が刊行されました。

デビュー作の『ピーチとチョコレート』は、容姿に悩みを抱える女の子がヒップホップに出会う物語。続く今作では、シングルマザーの愛海(らぶみ)と娘のかふうが、二人三脚で「車の免許」を取るために奮闘する姿が描かれています。

どちらの作品も舞台は沖縄。戦闘機の音が響き、車がないと生活がままならない、この土地ならではの「日常」を描いています。なぜ沖縄を舞台に書き続けるのか。作品の背景にある思いを、福木さんにたっぷり伺いました。

 

ヒップホップと沖縄の文化はシンクロする

『ピーチとチョコレート』

――『ピーチとチョコレート』はヒップホップを題材にされています。児童書では非常に斬新だと思いましたが、なぜでしょう?

【福木】最初からヒップホップの話を書きたいと思っていたわけではありません。当時はまだコロナ禍の名残がある時期で、頭の中に、女の子同士がマスクをつけたまま向き合っているシーンがポンと浮かんだのです。そこから「この子たちが最後にマスクをえいっと外して、お互いに向き合えたら素敵な話になりそうだな」と思って。

じゃあ、何をきっかけにマスクを外すんだろうと考えた時に、「ラップかもしれない」と思いました。私はヒップホップに詳しいわけではないのですが、同じ中学校にラッパーがいたりして、親しみがあったことから題材にしました。

――沖縄出身のラッパーは多い印象があるのですが、地域の文化と関係しているのでしょうか?

【福木】そうかもしれません。沖縄にはアメリカ文化が根づいていることもあって、ヒップホップに対する親しみが他の地域に比べるとある方なのかもしれません。加えて、ヒップホップには「地元をレペゼンする(代表する、象徴するといった意味)」という文化がありますよね。自分たちのルーツや土地を大切にする感覚が、沖縄の文化を大事にしたいという意識と重なる部分がある。だから沖縄は、歴史的にも文化的にもヒップホップと相性がいい地域なのではないかと感じています。

 

沖縄の子どもたちの日常を、物語の中にちゃんと残しておきたい

――『ピーチとチョコレート』そして『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』両作品とも沖縄が舞台になっていますが、沖縄を舞台にしている意味、そして物語への影響を教えてください。

【福木】沖縄で生まれ育ってきたので、何を書いても自然と沖縄の話になる、というのはありますが...(笑)。

子どもの頃、教科書を読んだときに、「全然知らないことが書かれているな」と思うことが多かったんです。例えば教科書には電車や駅が当たり前のように出てきますが、沖縄にはありません。なので私にとって、日本の児童書や小説を読む感覚は、海外文学を読むときの驚きや新鮮さに近いものがありました。

ということは逆に、本土の子どもたちから見ると、沖縄の何気ない暮らしを描くこと自体が、新しい発見になるかもしれないと思ったんです。異文化としての違いの面白さがありつつ、同じ年代として共感できるところもある。その両方を描けるのが、沖縄を舞台にする面白さだと思っています。

さらに、沖縄の子どもたちにとっても、「これは自分のための物語だ」と思える作品がもっとあった方がいい。そういう思いも、強くあります。

――今作では愛ちゃんとかふうの母子が協力して、免許取得にチャレンジするという物語です。免許がないと仕事に就くのも難しいという話は、地域差を感じさせますね。

【福木】私は、2年前に千葉県に引っ越してきたのですが、その際、沖縄で使っていた車を2台手放したんです。「車がなくてやっていけるかな」と思っていたのですが、問題なく生活できてしまって、それがとても驚きでした。同じ国内でも、これほど暮らし方が違うのかと実感しましたし、そうした生活の違いを覗ける面白さも、物語の魅力だと思っています。

――作中には基地や戦闘機の描写が登場します。これは子どもたちに歴史を知ってほしいという意図でしょうか?

【福木】それもありますし、私にとっては基地も戦闘機も生活の一部なんです。本土で電車が走っているのと同じように、沖縄では戦闘機が日常的に飛んでいる。日々起きていることを、あえて物語から排除するのは違うと考えました。

私は、宜野湾市で育ちました。宜野湾市をドーナツで例えると、真ん中の穴の部分に基地がどーんとあって、深夜まで轟音が鳴り響いているんです。こうした風景は、県外の人だけでなく、同じ沖縄の中でも、基地の近くで暮らしていないと実感しにくいものだと思います。だからこそ、その場所で暮らす子どもたちが見ている日常を、物語の中にきちんと残しておきたい。そういう思いで書いています。

 

子どもを大切にする価値観

『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』

――『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』には、ギャルママの愛(らぶ)ちゃんや、スナックの昭恵ママなど、インパクトのあるキャラが沢山登場していますが、これは沖縄の人らしさが反映されたキャラクターなのでしょうか?

【福木】沖縄っぽさは特に意識しているわけではないのですが、愛ちゃんも昭恵ママも、スナックのみんなも、登場人物たちの根底には「子どもをとても大切にする」という感覚があると思います。

沖縄で子どもを連れて歩いていると、知らない人からよく話しかけられるんです。エレベーターで乗り合わせても、お互い無言でいることの方が珍しくて、「可愛いですね、何ヶ月ですか?」といった声かけが自然に生まれる。おじいちゃんおばあちゃんだけでなく、若い世代も含めて、気軽に声をかけ合う文化があります。

子どもが困っていたら、周りで助けるのが当たり前、子どもは宝という感覚ですね。こうした価値観は、凄惨な戦争の歴史を背景に育まれてきたものなのかもしれません。一方で、貧困や暴力の問題などもあるので、一概に言えるものではないとも思っているのですが。そして、それもまた戦争や基地の問題と根っこで繋がっていると思います。

 

プロフィール

福木はる(ふくぎ・はる)

児童書・YA作家

沖縄県出身、千葉県在住。琉球大学教育学部卒業。小学校教諭を退職後、こども支援の活動に従事。現在は、子育てをしながら執筆活動に専念している。2023年、『ピーチとチョコレート』で第64回講談社児童文学新人賞の佳作に入選し、本作がデビュー作となる。

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