東京・赤坂に誕生した 「24時間眠らないホテル」の秘密とは?
2016年09月09日 公開 2021年08月31日 更新
インバウンド需要の高騰を背景に、日本各地で次々と新たなホテルがオープンしている。そんな中、ひときわユニークなホテルが東京・赤坂に誕生した。それが、今年3月にオープンした「ホテル・ザ・エム インソムニア 赤坂」である。「眠らないホテル」というコンセプトの元、ユニークなサービスを提供しているのだという。運営するソラーレ ホテルズ アンド リゾーツ㈱社長の井上理氏に、その背景と狙いをうかがった。
ユニークなサービスで差別化を実現!
カフェもフィットネスも24時間いつでも使える
「眠らないホテル」をコンセプトに掲げる「ホテル・ザ・エムインソムニア 赤坂」。一階に24時間営業のカフェがあり、宿泊客はいつでも無料でコーヒーを楽しめる。また、24時間利用可能なシアタールームやフィットネスルームを備えるなど、まさに「眠らない大人たち」のためのサービスが揃っている。
「24時間すべての施設を使えるホテルというのは、実はありそうでなかったスタイルです。
どんな大型ホテルでも、カフェやラウンジは終業時刻が決められている。しかし、このホテルが建つ赤坂は、日本有数の繁華街であり、ビジネス街でもある。
深夜や朝方でも、常に動き続けているエリアです。その立地に合わせ、『眠らないホテル』のコンセプトが生まれました」
そう話すのは、このホテルを運営するソラーレ ホテルズ アンド リゾーツ株式会社の井上理社長。不動産ファンドからホテル業界へと転じた異色の人物で、今年2月に新社長に就任。この斬新なホテルを企画したのも井上氏だ。
「企画の際、最初に浮かんだのが、入り口すぐのところに24時間営業のカフェを設置するというアイデアでした。それも、カフェとレセプションを別々に設置するのではなく、同じ空間でシームレスにつながるようにしたいと考えました。ホテルは本来、街とは隔離された空間です。ただ、『インソムニア』は街とホテルが直接結びつくようなものにしたかった。その接点として、カフェが最適だったのです」
カフェには宿泊客だけでなく、一般客も入れるため、まさに内と外との接点というイメージだ。
「宿泊のお客様は気分転換に部屋からカフェに出向いたり、部屋に戻る前に一息ついたりと、いろいろな使われ方をしているようです」
他にも、24時間眠らない3種類のスペシャルルームを用意。大画面モニターを備え、シアターや会議室として利用できる「ワーカホリック」。システムキッチンを設置し、ホームパーティが楽しめる「キッチンドリンカー」。最高級のトレーニングマシンを備えたフィットネスルーム「マッスルペイン」。
名前もユニークなこれらの特別室が、ホテルでの滞在時間をさらに楽しくしてくれる。
また、部屋はすべて約35㎡以上の広さで、ゆったりとした滞在が可能。だが、部屋はあくまでシンプルに、むしろ共用部分にこそこだわったという。
「一部の部屋を豪華にしても、部屋に泊まった人にしかそのメリットは感じてもらえません。かといってすべての部屋をグレードアップするには、膨大なコストがかかります。それに対して、共用部分は宿泊するお客様全員が使うことができます。共用部の付加価値を高めることが、顧客満足度をより上昇させると考えたのです。
ハードやソフトのサービスを向上させれば、コストも上がると考えがちですが、工夫次第でこれらの両立は可能なのです」
その土地と一体化し、「選ばれるホテル」になる
従来の常識を果敢なチャレンジで打ち破ろうとする井上氏。その背景には「インバウンド特需後」を見据えた戦略がある。
「ホテル事業は高度に需要に依存したビジネスです。
今は堅調なインバウンド需要に支えられて業界全体の業績が上昇していますが、ホテル不動産は1回建ててしまえば30年以上存在し続けます。そうなれば必ず何度かは景気や需要の下落に直面することになります。
ですから、我々が考えなければならないのは、長期的な時間軸の中で、このビジネスをいかに成立させるのかということだと思います。そのためには、まず差別化されたマーケットの変化に対応できる、選択されるホテルを作ることです。
いくら景気が悪化しても、お客様の数がゼロになるわけではない。その限られたお客様のファーストチョイスになれれば、いつの時代でも一定以上の業績を維持できるはず。それが、私がたどり着いた結論です」
それを実現するための取り組みの一つが、「その土地と深く結びついたホテル」というコンセプトだ。
「お客様はなんらかの目的があってその土地を訪れるのだから、ホテルが立地するエリアと一体化できればいいのではないか。
そう考えて誕生したのが『ホテル・ザ・エム』のブランドで、『インソムニア 赤坂』はその第1号店となります。
このブランドは、『その土地に、求められることを。』をコンセプトに、土地が持つ歴史や文化、空気感をホテル運営に取り入れています。『24時間眠らないホテル』も、赤坂だからこそ。他の場所に作る際には、赤坂とはまったく異なるコンセプトになるはずです」
「ホテル・ザ・エム」は、今後3年以内に3~4店の展開を予定。また、グループの中核を担ってきた「チサン」に代わるブランドも複数立ち上げる計画だ。
「ソラーレグループのイメージは、この数年間でかなり変わるでしょう。『ホテル・ザ・エム』は、その象徴的なブランドになる。これからも常識にとらわれないホテル経営にチャレンジし、この業界に一石を投じる存在になりたいと思っています」
取材・構成:塚田有香
写真撮影:長谷川博一
井上理(いのうえ・ただし)
ソラーレ ホテルズ アンド リゾーツ株式会社代表取締役社長1967年生まれ。99年、米国ローン・スター・グループ ハドソン・ジャパン株式会社入社。2003年、同グループ㈱スター・キャピタル取締役副社長、株式会社スター・プロパティーズ取締役副社長。07年1月より、ソラーレ ホテルズ アンド リゾーツ株式会社取締役副社長兼CFO。16年2月より現職。