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「共食いはしていない!」…南極から生還した“タロジロの奇跡”への誤解

嘉悦洋、北村泰一(監修)

2020年03月18日 公開 2024年12月16日 更新

「共食いはしていない!」…南極から生還した“タロジロの奇跡”への誤解


再会時、丸々と太っていたタロとジロ

《1957年から1958年にかけて、国家プロジェクトとして実施された第一次南極観測越冬。極寒の南極に置き去りにされ、1年後、奇跡の再会を果たしたタロとジロの2頭の兄弟犬の存在は、日本中に感動を巻き起こした。

しかし、この「タロジロの奇跡」には、知られざる"第三の生存犬"の存在があった。その歴史に埋もれた"第三の犬"の正体に迫った書籍『その犬の名を誰も知らない』では、タロ、ジロと再会をはたした唯一の隊員である、北村泰一氏は、著者である元新聞記者の協力を得て、その謎の解明にとりかかるが。

その過程で、タロジロ奇跡の生還について誤解されていることに対して北村氏が語る場面がある。本稿では、その一節を紹介する。》

※本稿は嘉悦洋著、北村泰一監修『その犬の名を誰も知らない』(小学館集英社プロダクション刊)より一部抜粋・編集したものです

 

最大の謎、2頭の犬は食料をどう確保していたのか?

タロとジロが南極で生きていたことに、当時の人々は仰天した。「置き去りカラフト犬、二頭が生存」の報道は、世界中に衝撃を与えた。昭和史に残るビッグニュースであり、まさに奇跡だった。

やがて、人々は不思議に思い始める。

タロとジロは、いったいどこで食料を手に入れていたのだろう?

北村氏は、食料の謎を解明することにこだわった。

「食料の謎を解くことは、『第三の犬』の特定に寄与するかもしれない」

そう言うのだ。私たちは、まず、60年前の諸説について、考察することにした。

第一次越冬隊が撤収する際に、鎖につないだ犬の前に置いた食料は数日分だった。すぐに第二次越冬隊が基地に入る。それまでのつなぎだから十分、という判断だった。

ところが二次越冬は急きょ中止になった。昭和基地は無人化した。目の前にある数日分の食料など、犬たちはすぐに食べ尽くしただろう。

鎖から逃れられなかった7頭は死亡。1頭を解剖した結果は、完全餓死だった。鎖から逃れた犬たちが直面したのは、生きていくために新たな食料を確保することだった。

いったいどこで? どうやって? 情報皆無の中で、さまざまな推理が新聞や雑誌に発表された。

まず有力視されたのは「昭和基地に残置された人間用の食料を食べた」という説だった。人間用食料説は分かりやすく、説得力もあったため、当初はかなり支持された。

しかし、第三次越冬隊が昭和基地を調査した結果、建物や通路内に残置した人間用の食料を犬たちが食べた形跡はないことが明らかになり、この説は消えた。

それでも、北村氏は一次越冬隊撤収時の人間用食料に関する記録などを集めるよう指示した。

集めた中で最も信頼できそうな資料は「食糧委員会への報告書・昭和基地食料在庫調べ」だった。

重要なのは、これらの食料については「撤収する時に再点検し、保存に十分注意をして残置した」と明記している点だ。

つまり第一次越冬隊は、海水浸入で使えなくなった天然冷凍庫にあった食品のうち、海水漬けになったものは現場に残置したが、被害を免れた食品のうち、建物や通路内でも保存可能な食品は天然冷凍庫から運びだして保管していた。

もともと建物内や、屋外に保管されていた食料も含めて、二次隊が来たら確実に使えるように、しっかり収納するなり、整理するなりしたうえで、厳重に保存されていたわけだ。

永田武第三次観測隊長も、昭和基地の建物を調査した直後、内部はほとんど完全に保たれており、食料も利用できるという内容の報告を、日本の上層部に上げている。

確かに、こうした記録を確認していくと、厳重に梱包された人間用食料を犬たちが食べることは不可能だったことが確認できて、すっきりする。

「これで、人間の食料を食べたという説は排除できることが確認できた。問題は犬用食料。これは手強いですよ」

北村氏が言うように、こちらは謎だらけだ。

基地には、係留された犬たちの前に置いた数日分の食料とは別に、箱に入った約1か月分の干鱈、ミガキニシン、ドッグペミカンが置かれていた。ところが、これらの食料もまったく食べた形跡がなかった。

二次越冬隊が来たら、すぐに犬たちに餌を与えなくてはならない。犬に不慣れな隊員が餌を短時間で与えられるように、犬用食料が入った箱は開梱しておいた。つまり、犬にとっても簡単に食べられる状態になっていた。

それなのに、犬たちは干鱈一匹すら食べていなかったのだ。

この点は大きな謎だ。じっくり調査していく必要がある。私たちは、先に、他の説の検証を急いだ。

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はっきりと否定されている「共食い説」

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