「グローバルワン」は「社員稼業」に通じる
柳井 われわれは世界中の社員全員が経営者のつもりで仕事してほしいという意味で、「グローバルワン」――全員経営を掲げています。フランス、中国、アメリカなどいろいろな国で事業をしていますが、国によって違う仕事は1、2割で、実は8、9割は同じことをやっています。
われわれは製品をつくってはいますが、小売業なので、社員の店頭での労働力に依存する比率が高い労働集約型の企業グループです。今日、入社してきた売場の人にも、その日から同じマインドセット(考え方の枠組み)で仕事をしてもらわないといけません。これは外国ではなかなか理解してもらえないので、浸透させるまで大変です。
松下 やはり海外では少し違った努力が必要になりますね。海外で経営理念を浸透させるための仕組みや、工夫していらっしゃることはありますか。
柳井 やはり言葉の面でしょうか。特に英語では言葉自体が持つ意味と、聞いて受け取る感覚が違うんです。ですから直訳しないように翻訳して、国が違っても受け取る感覚が同じになるようにしています。
松下 パナソニックの経営理念も、つくられて随分経っていますから、若い方にはわかりにくくなっている用語があるかもしれません。以前、それらを現代の人たちにも通用しやすい日本語にあらためようかと検討したことがあります。しかし、創成期の表現を尊重してそのままとし、今の若い人たちにも理解してもらえるように、しっかりとした説明をすることにしました。
例えばパナソニックには、「綱領」「信条」「七精神」というものがあります。「七精神」の1番目に「産業報国の精神」とあるのですが、「報国」というと、今の若い人たちには国家のために仕事をするのか、と違和感を持って受け取られることもあるかもしれません。そこで、「そうではなくて社会のためという意味ですよ」と説明するようにしているのです。
柳井 会社や組織が事業をする時、やり方は時代や地域にとても影響されます。だからこそ、根本はそのままに、時代や地域に合うように置き換える宣教師のような役割が必要だと思います。
松下 幸之助が提唱した「水道哲学」では、豊富で安価なもののたとえとして、水道の水を引用しました。しかし、インドネシアのようなアジアの国々では日本のように水が潤沢に安価で手に入りませんので、これを「バナナ哲学」と言い換えてみたりしています。
柳井 それぞれの国で水にあたるものは何かを、現地の人と日本人が一緒になって考えて言葉にする。それが大事ですね。