1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 53歳でスペイン留学してわかった、陽気なスペイン人が隠し持つ“意外な素顔”

生き方

53歳でスペイン留学してわかった、陽気なスペイン人が隠し持つ“意外な素顔”

Rita(旅暮らしエッセイスト)

2025年12月09日 公開

53歳でスペイン留学してわかった、陽気なスペイン人が隠し持つ“意外な素顔”

「賑やか」「情熱」「ロマンチック」そんなイメージが強いスペイン。
本稿の著者Ritaさんは、53歳の時に急に思い立って、学生として単身でスペインに渡り、3年間を過ごされてきたなかで、そのイメージは大きく変わったと言います。

本稿では、Ritaさんが感じたスペイン人にとってのハグの意味、そしてスペイン最大の魅力について語っていただきます。

※本稿は、Rita著『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

陽気さは、ハグでできている 

スペインで暮らし始めて最初に戸惑ったのは、挨拶には必ずハグがつきものということでした。

左右どちらから? 
どのくらいの角度で?
近づく距離感は? 
最初はどうもうまくいかず、ぎこちないハグばかりでした。

しかし、次第に慣れていくうちに、ハグをすることでその人のあたたかみを感じられるようになり、人柄までもが伝わってくるような、新鮮な感覚を覚えました。

それは単なる挨拶の形式ではなく、相手への気持ちを込めた心の交流だったのです。

日本では握手すら珍しい文化で育った私にとって、このハグの習慣は最初、実はちょっと負担にも感じていました。

でも、スペインの人たちにとって、ハグは相手への敬意と愛情を示す自然な表現。
そこには形だけでなく、心を込めて相手に向き合う姿勢が込められていたのです。

嬉しいとき、まずハグして喜びを共有しよう。
悲しいとき、まずハグしてギュッと分かち合おう。
困ったら、まずハグして冷静になろう......。

スペインの人たちは、このハグによって、気持ちの切り替えをしているようにも思えます。
彼らにとってハグは、単なる挨拶を超え、感情をリセットし、心を整える大切な習慣なのかもしれません。

よく「スペイン人は明るいよね」と言われます。
確かに、道で目が合えば挨拶してくれるし、お店では笑い声が響き、明るいイメージを持たれるのも、当然のことのように思えます。

でも、実際に暮らしてみて気づいたのは、その陽気さは、ただの性格の明るさや根っからのポジティブさとは、少し違うということでした。
もしかしたら彼らは、「気持ちを切り替える力」に長けているのかもしれません。

彼らは人生には浮き沈みがあることを受け入れ、その中で自分らしく生きる方法を知っているように思えます。

サッカーの国際試合の夜なんて、その切り替え力が街全体で炸裂します。
スペインが勝利した日、バルの前は旗を持った人であふれ、通りでは大声で歌が始まり、建物のベランダには国旗がはためき出します。

近所の子どもたちは寝間着のまま外に飛び出してきて、老若男女が一緒になって叫んで笑って祝います。
そのエネルギーたるや、もう圧倒的です。
普段は静かなおじいさんも、控えめなお母さんも、このときばかりは全身で喜びを表現します。

一方、試合に負けた日はというと、しごくあっさり。
「まあ、また次があるよ」と、サッと日常に戻っていきます。
そこに、必要以上に引きずらない軽やかさと、前を向く強さを感じます。

私たちは、「きちんと感情を整理してから次に進まなきゃ」と思いがちですが、スペインの人たちはもっと自由。
泣いたあとに笑っていいし、笑っている途中でふと涙がこぼれたって、誰も気にしません。

感情をきれいに整えて見せることよりも、正直でいることのほうが、ずっと自然で素直なことだと知っているからです。

 

スペインの最大の魅力は「人」

スペインの魅力は「人」

ある日、語学学校で一緒になったクラスメイトが、授業中に突然涙を流し始めました。故郷の家族のことを思い出したのだそうです。

日本なら「すみません」と謝って席を外すところでしょうが、周りの生徒たちは自然に彼女を慰め、先生もそのことを授業の一部として受け入れていました。
その後、彼女は涙を拭いて笑顔を見せ、また普通に授業に参加していました。

「感情の起伏を隠す必要がない環境では、より自然体でいられるのだ」と実感した瞬間でした。

スペインの人たちは、失敗や挫折を経験しても、それを自分の価値を否定する理由にはしません。
必ず「今回はうまくいかなかったけれど、次は違う方法を試してみよう」という、前向きな姿勢を保ちます。

この考え方は、日常のあらゆる場面で見ることができます。

たとえば、料理に失敗しても「今度はもっと美味しくできるわ」と笑い、恋愛がうまくいかなくても「もっといい人に出会えるはず」と希望を持ち続けたりするのです。

感情を大切にしながらも、それに振り回されすぎない。
自分らしさを大切にしながらも、他人の多様性も受け入れる。
そのバランスの取り方が、自然な魅力となっています。

実は、この明るさ、気持ちの切り替えの上手さ、常に前向きでいられる力こそが、スペイン人本人たちが最も誇りに思っている部分なのです。

私がスペイン人の友人たちに「スペインのどこが一番素晴らしいと思う?」と尋ねると、迷うことなく「人よ! スペイン人よ!」と即答されることが多く、美しい建築も、豊かな歴史も、情熱的なフラメンコも、すべてを差し置いて「人」こそが最大の魅力だと、彼ら自身が胸を張って語るのです。

この自信は決して傲慢さではありません。
むしろ、長い人生を歩む中で培われた深い知恵から生まれているように感じます。

「人間は不完全で当たり前。だからこそ互いに支え合って生きていこう」「今日がダメでも明日がある。だから今を精一杯楽しもう」......そんな人生哲学が、自然と彼らの魅力を輝かせているのです。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×