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コロナでピンチ!銚子電鉄が仕掛ける起死回生の大作戦~すべては「電車を止めない」ために

「PHPオンライン衆知」編集部

2020年08月26日 公開 2020年08月28日 更新

コロナでピンチ!銚子電鉄が仕掛ける起死回生の大作戦~すべては「電車を止めない」ために

「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃいけないんです!」

大正2年に創業した銚子電気鉄道の経営状態が厳しくなったのは、マイカーが普及した高度経済成長期の頃。「およげ!たいやきくん」ブームに目をつけ、1976年にたい焼きをつくったことで、「食品を製造販売して鉄道事業の赤字を埋める」という経営手法が生まれた。

バブル崩壊後の1995年には、銚子名物ぬれ煎餅の大ヒットにより、どうにか経営破綻を免れた。いつしか同社は信用調査会社に「鉄道業」ではなく「食品販売業」として登録され、電車を走らせるために食品を販売する会社になっていた。

近年では、スナック菓子「まずい棒」を発売するなど、まずい経営状況を逆手に取った自虐ネタによる切実なアピールがメディアに取り上げられ、予想外に支援の輪が広がっていく。

その結果、銚子電鉄は2019年上半期、ようやく黒字化が見え始めたのだが……。

取材・文:森末祐二
 

台風とコロナ禍が経営を直撃

2019年の8月まで、銚子電鉄の経営はたしかに回復基調にあった。ところが自然の猛威が同社の経営を直撃する。同年9月上旬の「令和元年房総半島台風」を皮切りに、暴風雨の被害に何度も遭ってしまう。銚子を訪れる観光客は激減、ぬれ煎餅の工場も大きな被害を受け、たちまち黒字化の夢は消えた。

銚子電鉄の利用客のうち、地元の乗客は約25パーセントで、残りは観光客が占めている。観光がストップすれば、鉄道事業の収入はもちろん、頼みの綱である犬吠駅の直営売店の売上が大幅に下がってしまうのだ。

同社で営業戦略を担当する柏木亮常務は、コロナ禍における同社の惨状を話してくれた。

「それでも昨年12月から2020年1月にかけて少しずつ持ち直してきていたのですが、新型コロナウイルスが世を騒がせはじめると、3月中旬には再び乗客が激減してしまいました。4月から5月にかけては通常の9割減、運賃収入がたったの4,480円という日もありました」

落ち込んだのは鉄道収入だけではない。このコロナ禍により、各地に卸売りをしていたぬれ煎餅の売上まで激減したのである。同社の経営は、まさに瀕死の状態に陥る。
 

「絶対にあきらめない」竹本社長の思い

銚子電鉄、竹本勝紀社長
銚子電気鉄道 竹本勝紀社長

まさに創業以来最大の危機。だじゃれや自虐ネタで周囲を笑わせ、連日メディアに登場していた竹本勝紀社長も、さすがにこの状況には参ったという。

「本来書き入れ時のゴールデンウイークも、新型コロナウイルスの影響で電車は毎日ガラガラ。本当に冗談ではなく「空気を運んでいる」状態でした。地域と鉄道とは運命共同体。鉄道のない町は寂れてしまいます。ですから、これまで『この街に銚電があってよかった。ありがとう銚電』といっていただけるよう、頑張ってきたのですが……いまはもう『電車屋なのに自転車操業です』という自虐ネタもシャレにならない状態です」

しかし、「絶対にあきらめない」のが銚電魂。この窮状に忙殺されながらも、竹本社長は前向きな姿勢を失わない。

竹本社長はもともと税理士であり、かつては銚子電鉄の顧問税理士を務めていた。その後経営難の同社を救うべく、2012年に薄給で社長に就任することとなる。以後、「お化け屋敷電車」「UFO召喚イベント」「電車内でのプロレス興行」など、ユニークな企画を次々と生み出し、「日本一のエンタメ鉄道」というキャッチフレーズのもと、なりふり構わずお客様を呼び込んできた。

時には「鉄道会社なのに、何をふざけているんだ!」とお叱りを受けることもあったという。だが、竹本社長に迷いはない。

「じつは、私自身が2016年に運転士の資格を取りました。銚子電鉄に入ったおかげで、子供の頃からの夢を実現できたのです。やれることは何でもやって、何としても鉄路を守っていく。電車を止めるわけにはいかないのです」

そんな竹本社長について、前述の柏木常務は次のように語った。

「当社のYouTube『激辛(げきつら)チャンネル』で見せているキャラクターそのままに、竹本社長はとてもお茶目な人です。しかしその一方で、じつは深く考えて行動する慎重派でもあると思います。とにかく真面目で、社に届いた大量の応援メッセージや手紙などにはすべて目を通しています。忙しすぎてとても全部に返信はできませんが、それでも少しずつ返事を書いているようです。本当に地域のこと、お客様のことを真剣に考えている経営者です。5年前に初めて会ったときは、さえない印象のおじさんにしか見えなかったのですが(笑)。信念の人ですね」

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