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社会

気温の上昇がなぜ食料危機に結びつくのか

井出留美(食品ロス問題ジャーナリスト)

2020年12月26日 公開 2022年10月25日 更新

井出留美

気温が上がるとなぜトウモロコシの収量が減るのか

1960年代の「緑の革命」は、農産物の生産を増やした反面、農薬や肥料の使用が土壌や農家に負荷をかけたという批判も受けた。気候変動により異常気象や自然災害が起こり、それが農畜水産物をはじめとした食料の栽培に影響する。

温暖化は、穀物の生産地に影響を及ぼす。米国のスタンフォード大学が過去のデータを調べたところ、気温が平均2度上昇することで、小麦の生育期間が9日間短くなり、収穫量が2割減ったことがわかった。

2012年9月18日に農業環境技術研究所が発表した緊急レポート「地球温暖化が進行すると世界の穀物主産地の収量は低下する――四つの気候変化シナリオで米国、ブラジル、中国における2070年までのトウモロコシとダイズの生産性を予測」によれば、

「気温の上昇に伴う呼吸量の増加と生育期間の短縮による減収効果が、大気中の二酸化炭素濃度の上昇による増収効果を上回るため、収量の低下傾向と3カ国の同時不作確率の増大が引き起こされる」とある。

トウモロコシは、気温が2度上昇すると、米国では17.8%の生産量減少、気温が4度上昇すると46.5%と半分近くも減少する。大豆に関しても、気温が1.8度上昇すると、減産が予想されている。

農研機構のレポートによると、地球温暖化による穀物生産被害は、過去30年で、世界全体で年間平均424億ドルにのぼる。

農研機構の最新の試算によれば、地球温暖化で世界の平均気温が2度上昇した場合、世界の穀物生産に年間800億ドル(8兆4000億円)の被害を与えるという。

拙著『食料危機』(PHP新書)でも述べているが、日本の中世において、高温での旱魃が大規模な飢饉をもたらす要因となったと研究者が論文で述べている。「温暖化イコール農業や食料生産にプラス」であると断定することはできない。

 

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