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気温の上昇がなぜ食料危機に結びつくのか

井出留美(食品ロス問題ジャーナリスト)

2020年12月26日 公開 2022年10月25日 更新

気温の上昇がなぜ食料危機に結びつくのか

現在極度の食料不安で2億7000万人以上が苦しんでおり、食料危機は世界最大の問題といえる。

その要因の一つに「気候変動」、すなわち温暖化が挙げられるという。温暖化がなぜ食料不安に結びつくのか。「温暖化イコール農業や食料生産にプラス」といえない理由を解説する。

 

2017年、水不足で2.4%食料生産が減少

気候変動の影響は、強調してもしすぎることはない。全国地球温暖化防止活動推進センターの公式サイトには、気候変動による将来の主要リスクとして、食料不足をはじめ、水不足や生態系損失などの八つのリスクが挙げられている。

八つのリスクの中でも「水不足」は食料不足に直結する。世界の環境問題について発信を続けるレスター・ブラウンは新著『カウントダウン』で、

「世界が直面するリスクとして、飲料水が足りないことはさほど重要ではない。人が1日に必要とする水の量は4リットルにすぎないからだ。

それよりむしろ一番の懸念は、一人が1日に口にする食料の生産に必要なおよそ2000リットル、飲む量の500倍である。そして、これこそが難題なのだ」としている。

この本では、水不足によるストレスで、世界の穀物収穫量は、2016年の25億9300万トンから、2017年には25億3100万トンと、2.4%(6200万トン)減少したことを指摘している。

レスター・ブラウンは「世界の穀物消費量は主に人口増加により年平均4300万トンずつ増加してきており、その生産のために毎年430億トンの水が新たに必要となる」ことを指摘しており、これには答えが見つかっていないと前掲書で書いている。

しかも水不足は砂漠化につながるだけでなく、水難民の増加や紛争を引き起こす可能性もあるのだ。

"Global Report on Food Crises"で「最も食料不足に直面している」とされていた人口2700万人のイエメンでは、首都サヌアの住民は月にたった1日しか水道水を手に入れることができない。

レスター・ブラウンは、この水不足は「世界の穀物収穫量の減少としてすぐに顕在化するだろう。帯水層の枯渇や砂漠の拡大は局所的な減少であるが、その影響は地球全体に及ぶ」と書いている。水不足は他人ごとではない。

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