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アレクサンドロス大王はなぜ、世界を征服しようと考えたのか

2018年10月11日 公開
2018年10月23日 更新

佐藤賢一(作家)

アレクサンドロス大王が世界征服へ動く

アレクサンドロス、まさにマケドニアの秘蔵っ子です。フィリッポス二世は意外と子煩悩というか、あるいは万事に気が回る、恐ろしく精力的な人だったのかもしれませんが、あれだけの仕事をしながら、かたやで息子の教育にも配慮が行き届いているんですね。

ギリシア文化の移入に熱心なのはマケドニアの伝統ですが、それにしても王子につけた家庭教師が、あの哲学者アリストテレスです。ただアリストテレスを招聘するのみならず、フィリッポス二世は首都ペラから四十キロほどのミエザというところに学校を作りました。

どうして学校かというと、そこにプトレマイオス、ヘファイステイオン、リュシマコスというようなマケドニア貴族や高官の息子たち、つまり王子が王となる近い将来、その側近になるべき人材を、一緒に勉強させたんですね。

兄弟でも、友人でも、子供時代を一緒にすごすと、大人になっても簡単には裏切らない。歴史の教訓といいますか、一種の法則ですね。苦労人フィリッポス二世は、息子のために深謀遠慮を働かせたわけです。アレクサンドロス三世の立場でいえば、父親に恵まれました。

アレクサンドロス大王といえば、歴史に燦然と輝く英雄です。稀にみる天才だったともいわれます。確かに才能に恵まれていたと思いますが、それだけで成功できるかどうかとなると疑問です。

父親に恵まれる、ないしは父親の遺産に恵まれる。これこそ歴史における成功パターンのひとつなんですね。あるいは偉業は親子二代で成し遂げるというべきかもしれません。父親がきっちり土台作りをして、それを後を継いだ息子がうまく使って、驚くべき実効を挙げていく。

まあ、父親が準備したものを、うまく使いこなすだけの才能が息子になければ始まりません。アレクサンドロス三世は、この面で全く天才的でした。戦場に即し、敵情に応じ、精巧かつ大胆不敵な用兵を展開して、フィリッポス二世が作り上げた最強の軍隊を、十全に働かすことができたんですね。

やることも、あらかじめ決まっているから迷いがない。まさに最短距離を一直線で、スピード感が凄いのも道理です。ここでフィリッポス二世没後の混乱を収拾したころのアレクサンドロス三世に話を戻しましょう。

息子のほうも、無為に時を費やすことは好みません。まだ22歳のマケドニア王、テッサリア連邦長官にしてコリントス同盟全権将軍は、もう前334年には父フィリッポス二世の遺志を継いで、ペルシア遠征を開始します。

ヘレスポントス海峡、今のダーダネルス海峡ですね、そこを越えていったのは歩兵3万2千、騎兵5千、そのうち歩兵7千、騎兵600がコリントス同盟の割当でした。小アジアに進むと、現地の総督たちが率いるペルシア軍と遭遇します。グラニコスの戦いは騎兵戦術で勝ち取りました。

まだ緒戦です。主力でもない。前333年秋にはペルシア王ダレイオス三世が率いるペルシア軍と、イッソスで激突しました。再び騎兵戦術で敵王を敗走させ、二連勝です。前332年にはシリアに向かい、フェニキア人の都テュロス、さらにガザと陥落させていきます。ここで活きたのが、父王が調えていた先進の攻城兵器でした。

そこからエジプトに展開すると、戦わずして占領を遂げたアレクサンドロスは、ここでファラオというエジプト王の称号を取ります。同時に建設を命じたのがアレクサンドリア、アレクサンドロスの都市という意味で、方々に作られるのですが、そのうち今に至るまで残っている、あのエジプト北岸のアレクサンドリアです。

はじめにペルシア軍をガツンと叩き、ひるませた隙に背後を襲われないよう他の敵を排除して、いよいよ決戦というわけで、アレクサンドロスはエジプトを発ち、ペルシア深奥に向かいます。

前331年4月に迎えたのが、有名なガウガメラの戦いです。騎兵と歩兵の連携戦術、さらに楔形陣を用いるなどして、ペルシア軍を撃滅させます。

進軍を続けて、バビロン、さらにスサと落とし、前330年にはペルセポリス、パサルガダイ、エクバタナと攻めて、アケメネス朝の五都全てを占領してしまいます。ダレイオス三世は逃れたバクトリアの総督ベッソスに捕えられ、すでに殺されていました。

ここにアケメネス朝は滅亡します。ただベッソスがペルシア王を名乗り、さらにソグディアナでも蜂起が続いて、アレクサンドロスは前329年からも平定戦を続けることになります。

これが思いのほかに長引き、前327年、王がソグディアナの豪族オクシュアルテスの娘、ロクサネと結婚することで、ようやく成し遂げられました。

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