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使いすぎても、手放してもストレスに...現代人が陥る“スマホ依存”の実態

2023年07月05日 公開
2023年12月08日 更新

アンデシュ・ハンセン(精神科医)

スマホ依存をやめられない理由

スウェーデンの精神科医のアンデシュ・ハンセン氏は、この10年で精神科を受診する患者が増加していると語る。その原因の1つとして考えられているのが「一気にデジタル化したライフスタイル」だ。本稿では、スマホ依存が人間に及ぼす影響について詳細に解説する。

※本稿は、『THE21』2023年8月号特集「40代からの『脳・心・体』疲労回復術」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

急速なデジタル化の進行と心の不調の増加

心の不調で精神科を受診する人が、ここ10年、特に若い人の間で増えている。その一因は、一気にデジタル化したライフスタイルにあるのではないか、と考えられている。

デジタル化が脳に及ぼす影響は研究自体始まったばかりだが、これほど急速にライフスタイルが変化したことは、人類史上ない。さらに、現代人は睡眠時間が減り、座っている時間が増えるという、これまで人類が体験したことがない種類のストレスを経験している。これらはすべて脳にとって未知の世界なのだ。

現在、大人は平均して1日に3~4時間をスマホに費やしている。10代の若者ならさらに1時間ほど長く、だいたい4~5時間だ。

多くの人が毎朝起きて最初にすることは、ベッド脇のスマホに手を伸ばすこと。そして1日の最後にするのはスマホをベッド脇に置くことだ。私たちは1日に2600回以上スマホを触り、平均して10分に1回はスマホを手に取っている。

誰かからの連絡を待っているわけでなくても、スマホが手元にないと落ち着かないと感じる人も多い。

何か他のことをしている最中でも、チャットの着信音が聞こえると、スマホを手に取る人は多いだろう。そのついでにSNSをチェックし、そこでシェアされているニュースのリンクに飛び、記事を数行読んだところでセールの広告に気を取られ、目を通そうとしたところで友人がSNSに投稿したという通知が届く――もともとしていたことは、もはや忘却の彼方だ。

 

スマホを手放すとストレスホルモンが増加

では、スマホを手放せないことは、私たちにどのような影響を与えているのだろうか。

スマホを強制的に手放した被験者の体内では、ほんの10分でストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが上昇する。

脳がどのように進化してきたかを考えれば、これは特におかしなことではない。ドーパミンを与えてくれる対象に意識を集中させるのは、生き延びるために大切なことであり、後述するように現代ではスマホがその役割を担っているからだ。

一方で、スマホは、失くしたときだけにストレスを生じさせるわけではない。20代の若者およそ4000人にスマホの利用習慣を聞き取り、その後1年にわたって観察を続けた研究では、熱心にスマホを使う人ほどストレスの問題を抱えている率が高く、うつ症状のあるケースも多かった。

アメリカ精神医学会が約3500人に対して行なったインタビューでも、同じような結果が示された。スマホを頻繁に取り出して見る人ほど、ストレスを多く抱えていたのだ。

多くの被験者が、時々はスマホを遠ざけるほうがいいとわかっているし、3人に2人はデジタルデトックスが心の健康のためにいいだろうと思っていた。しかし、実際にそれを実行していた人の割合は、30%に満たなかった。

複数の大規模な研究をまとめてみると、ストレスとスマホの使用過多には関連があることがわかる。不安障害にも同じことが言えることがわかっている。10件の調査のうち9件で、不安とスマホの使用過多に相関性が見られた。

被験者がスマホを手放したときの心配と不安を計測したところ、離れている時間が長くなればなるほど、不安が増すことがわかった。最も不安が大きかったのは、もちろん、スマホを最もよく使っている人たちだ。

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スマホの最大の影響はそれ以外の時間を奪うこと >

著者紹介

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)

精神科医

1974年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身。スウェーデンで国民的人気を得た精神科医。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得し、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』(以上、新潮新書)、『一流の頭脳』『運動脳』(以上、サンマーク出版)が世界的ベストセラーとなる。

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