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「フリマアプリ」は世界のインフラになる

2016年02月25日 公開
2016年04月06日 更新

山田進太郎(メルカリ社長)

【連載 経営トップの挑戦】 第4回
〔株〕メルカリ代表取締役社長 山田進太郎

 

 今、急拡大していることで注目を集めているC to C(個人間取引)市場。数多くの企業が次々と参入しているが、中でも成長著しいのがメルカリだ。同社は、個人が自分の持ち物を売りに出し、欲しい人が買うフリマ(フリーマーケット)アプリ『メルカリ』を2013年7月にリリースし、現在、ダウンロード数は国内で2,400万。米国でも700万ダウンロードに上っている。出品数は毎日数十万品。なぜ、これほどまでの急成長が遂げられたのか。そして、どこへ向かうのか。創業社長の山田進太郎氏にお話をうかがった。

 

スマホの普及でC to C市場が急拡大した

 

 ――今、C to C市場は大きな注目を集めています。初めから急成長する市場だと見込んで参入されたのですか?

山田 そうですね。もともとC to Cのサービスとしてはネットオークションなどがあって、ポピュラーなものになっていました。市場規模もけっこう大きくて、eコマースをしているAmazon.co.jpや楽天の流通額が1兆~2兆円という規模なのに対して、『ヤフオク!』は約8,000億円と、引けを取りません。

 でも、1999年に『ヤフオク!』ができてから、いろいろな会社がC to C市場にチャレンジをしたものの、うまくいかない、ということが繰り返されてきました。私も、学生時代に、楽天でオークションサービスの開発に携わったことがあります。C to Cのビジネスに最初に興味を持ったのは、それがきっかけです。でも、やはり『ヤフオク!』には勝てなかった。ずっと、「いつかチャンスが来ないかな」と思っていたところにスマホが登場しました。「今、スマホ向けに最適化したC to Cのサービスを作れば、より多くの人に使ってもらえるのではないか」と考えて、『メルカリ』を始めました。

 C to Cのビジネスは、インターネットが登場して、それによって個人と個人がつながれるようになったことで成立しました。ですから、とても「インターネット的」なビジネスだと思います。インターネットにはコンピュータを通じて接続するわけですが、そのコンピュータとして、以前はPCが使われていた。そして、今はスマホが使われるようになりました。スマホは、PCよりももっと「パーソナルな」コンピュータですよね。使っている人の数が格段に多い。誰もがスマホというコンピュータを持つようになったことで、C to C市場が急拡大したと考えています。

『ヤフオク!』は今でも伸びています。でも、『メルカリ』の伸び率のほうが高い。それは、「PCは使わないけれどもスマホは使う」という新しい層を取り込んでいるからです。

 ――従来あったサービスのスマホ版を考えられたということですか?

山田 そういうわけではなくて、「スマホで個人間取引をするのなら、こうあるべきだろう」ということをゼロベースで考えて『メルカリ』を設計しました。だから、たとえば、オークション形式ではなくて、出品者に値段を決めていただく形にしています。オークションだと、入札してから購入までに時間がかかってしまいます。この時間が、PCのユーザーには待てるけれども、スマホのユーザーには待てません。メールだと返事が1日返ってこなくても気にならないのに、LINEだと1時間レスがなかったら気になるのと同じです。

 写真を重視しているのも、スマホに最適化するためです。PCのネットオークションだと文章による説明が中心で、そこに写真を付け加えて出品しますが、『メルカリ』の場合は、まず写真を撮って、それから文章による説明を入れていく。タイムラインの画面もビジュアルを重視して、パッと見るだけで「これはジーンズだな」「これはスマホだな」とわかるようにしています。

 

 

 

 ――確かに視覚的にわかりやすい画面ですね。『メルカリ』の特徴として、業者を排除していることも挙げられると思います。これは手数料収入を減らしてしまうことにもなると思うのですが、それでもB to Cは排除して、C to Cにこだわるのはなぜですか?

山田 将来的には、うまく業者を入れていこうという考えもなくはないのですが、業者を入れると出品のハードルが上がってしまうからです。

『ヤフオク!』には、事業として出品している「スモールB」と呼ばれる出品者がかなり多いと言われています。彼らは商品のスペックや説明を詳しく書いたり、写真を綺麗に撮ったりするので、普通の人たちは「自分はそこまでできない」と敬遠してしまう。そうでなくても、オークションに出品するには設定項目がたくさんあって、ハードルが高い。

 当社は、出品のハードルをできる限り下げようとしています。だから、スマホで簡単に写真を撮って、説明を書いて、値段を決めるだけにしているのです。業者を入れないのも、出品のハードルを下げるため。それがうまくいっていて、「こんなモノも売られているのだったら私もやってみようかな」と出品する一般の方がたくさんいます。

 ――まずは出品者を増やそうということですね。気軽に出品できるようにすることは、一方で、トラブルが増えることにもつながるのではないかと思いますが。

山田 トラブルは予想していたより少ない印象です。そもそも相手を騙してやろうと考える人はあまりいないのでしょう。

 また、トラブルを防ぐために、購入者に商品が届き、中身が確認されるまで当社が代金を預かっておく仕組みにしています。もし全然違う商品が届いたら、当社のカスタマーサポートに連絡していただければ、出品者に代金を支払いません。だから、相手を騙そうというインセンティブが働かないわけです。

 

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アプリの質の高さに徹底してこだわった >

著者紹介

山田進太郎(やまだ・しんたろう)

〔株〕メルカリ代表取締役社長

1977年、愛知県生まれ。早稲田大学在学時にインターンとして楽天〔株〕で『楽天オークション』の立ち上げに参加。卒業後はフリーでインターネットビジネスの仕事を請けながら経験を積み、2004年に単身渡米。05年に帰国し、〔株〕ウノウを設立。10年にウノウをZyngaに売却、Zynga Japanゼネラルマネージャーに就任。12年、Zynga Japanを退社し、世界一周の旅に出て20数カ国をバックパッカーとして訪れる。13年、〔株〕コウゾウ(現〔株〕メルカリ)を創業。14年、米国で『メルカリ』のサービスを開始。

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