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「シゴトでココロオドル人」を、技術の力で世界中に増やす

2016年12月25日 公開
2017年02月01日 更新

仲 暁子(ウォンテッドリーCEO)

【連載 経営トップの挑戦】 第14回
ウォンテッドリー〔株〕代表取締役CEO 仲 暁子

 ゴールドマン・サックス証券に勤務後、フェイスブック社日本法人の初期メンバーとして活躍。そして、現在は若き起業家として活躍する仲暁子氏。華々しい経歴だが、漫画家を目指した時期もあるというユニークな一面も持つ。2010年に創業したウォンテッドリー〔株〕のビジネスモデルは、SNSを使って企業の採用活動を支援し、成功報酬ではなく月額で料金を受け取るというもの。通常の求人サイトとは違い、雇用条件を掲載しないことが特徴だ。それは、いったいなぜなのか? そして、なぜそれが多くのユーザーや企業に支持されているのか? お話をうかがった。

 

優秀な人材はミッションやバリューへの共感で動く

 ――創業以来、順調に業績を伸ばされているようですが、実感としてはいかがですか?

 おかげ様でかなり順調ですね。当社が運営しているビジネスSNS『Wantedly』のアクティブユーザー数は、現在、2015年末の月間約60万人から約120万人にまで増えて、国内で最も多くのキャリアプロフィールが集まったビジネスSNSになっています。

 Wantedlyの中の1機能である『Wantedly Visit』の「採用広報サービス」を利用していただいている企業の数も約2万社に増えています。

 ――収益の柱になっているのは採用広報サービスですか?

 そうです。企業に月額で利用していただいています。

 ――他社の求人サイトと違う強みはどこにあるのでしょうか?

 2つあって、1つ目は、給与や福利厚生を掲載せず、企業のミッションやバリューを掲載していることです。ですから、「求人サイト」ではなく「採用広報サービス」と呼んでいます。

 確かに給与などの雇用条件は重要ではあるのですが、ミレニアル世代(2000年以降に成人した世代)には、給与だけではなく、「なぜその事業をやるのか」「どういう価値観で働いているのか」「どのように世界を変えたいのか」といった企業のミッションやバリューを重視している人が多い。新卒のときは「親を安心させたい」などと考えてネームバリューのある企業に入社しても、しばらくして「何か違うな」と感じたら、我慢せずに転職を選びます。そのとき、各社がミッションとバリューを載せているWantedly Visitに魅力を感じていただけているのだと思います。

 もう1つは、カジュアルであること。「採用面接を受けに行く」のではなく、「話を聞きに行ってみる」ためのサービスであることです。

 仕事ができる人ほど、いろいろな企業からオファーが来ます。知人の紹介だと、採用面接を受けるつもりはなくても、「話だけは聞いてみよう」とその企業に行ってみて、お茶をしたり食事をしたりするうちに、結局は転職につながる、というケースが多い。Wantedly Visitでは、この流れを疑似的に再現しています。

 ――企業側にも、給与や福利厚生を見て応募してくる人材よりも、ミッションやバリューに共感する人材を採用したいと考えるところが増えているのでしょうか?

 そうしないと優秀な20代は採用できなくなっていると思いますね。

 とくにエンジニアは引く手あまたです。今、可処分時間のほとんどはスマホに使われていますから、企業は広告をスマホに出さなければならないし、ECで商品やサービスを買ってもらわなければならない。そのためにはエンジニアが必要です。従来は外注しているところが多かったのですが、内製したほうがクオリティを高められますから、各社がエンジニアを求めています。そういう状況ですから、優秀なエンジニアにとっては、給与はある程度あって当たり前。それに加えてミッションやバリューに共感しないと入社に至らないのです。

 ――エンジニアの求人が多いということですか?

 以前はそうで7割くらいを占めていましたが、今では他のさまざまな職種・業種も増えて4割くらいになっています。学生インターンも増えていますし、法律事務所や行政、美容室などにも利用していただいています。

 ――企業に対する営業活動はされているのですか?

 基本的に、企業側からお問い合わせをいただいています。行動様式を変えていただかないといけないので、興味を持っていただいた企業を教育して、当社のサービスを使っていただけるようにすることに力を入れています。

 ――「教育」というのは?

 やはり「給与を高くすれば応募が来るだろう」と考えているところが多いわけです。そうではなくて、「どういう価値観で働くか」も給与と同じくらい重要なのだということを理解していただかなくてはならない。そのための説明会を当社で開いたり、地方の企業にはオンラインで行なったりしています。

 ――他社がWantedly Visitと同様のサービスを立ち上げて競合することは考えられませんか?

 すでに似たサービスをしているところはあります。けれども、表面的なところしか真似ていないので失敗するんですよ。見えない部分の技術をコピーすることはできません。Wantedly Visitは、メールの配信方法、ユーザーのアクティビティのトラッキングやログの取り方などの技術をかなり洗練させているのです。

 この表面から見えない部分を作っているエンジニアは、当社のミッションに共感したうえで、自分の頭で考えて、自分で行動しているので、開発のスピードが速い。いちいち上司に確認しながら開発しなければならない大企業はついてこられません。

 

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著者紹介

仲 暁子(なか・あきこ)

ウォンテッドリー〔株〕代表取締役CEO

1984年生まれ。京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。退職後、Facebook Japanに初期メンバーとして参画。2010年、フューエル〔株〕(現ウォンテッドリー〔株〕)を設立し、Facebookを活用したビジネスSNS『Wantedly』を開発。

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