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五感を使った仕事を意識する 錺簪職人 三浦孝之

2017年05月10日 公開
2023年07月12日 更新

<連載>一流の職人に学ぶ「仕事の流儀」第6回

作品を俯瞰して全体のバランスを意識する

職人の仕事を通じ、仕事で大切なことを学ぶ本連載。第6回目は、錺簪(かざりかんざし)作りを専門的に行なう数少ない職人のひとり・三浦孝之氏に、仕事に対する心構えをうかがった。

 

祖父の死をきっかけに職人を志す

 古くは縄文時代から見られ、江戸時代に広まったとされる簪。錺簪作りを専門的に行なう数少ない職人として有名な、かざり工芸三浦・四代目の孝之氏は、その伝統と技術を受け継ぎ、弟子も育てている。ただ、手間がかかる割に需要は少ないのだと孝之氏は語る。それでもなお、錺簪職人を志した理由は何だったのだろうか。

「子供の頃は家業を継ぐつもりはありませんでした。祖父と父が肩を並べて作業していたのを見て『こんな細かい作業はとても自分にはできないな』と思っていたからです。

 ただ、職人の血筋からか、絵を描いたり物を作るのは好きでした。高校卒業後はデザインの専門学校へ通いまして、その後、広告代理店で印刷物の版下製作に従事しながら、デザイナーを目指していました」

 しかし、孝之氏は祖父の死をきっかけに錺簪職人を志すようになった。

「広告代理店に5年程勤めていたところで、祖父が亡くなったのですが、これがきっかけで家業に対する意識が変わりました。 

 デザイナーには代わりがたくさんいますが、家業には代わりがおりません。父が職人を辞めてしまえば、技術の継承は途絶えてしまいます。初めて、自分の家の仕事は貴重なのではないかと思い始めました」

 いつも生活の一部として捉えていた作業風景が、仕事の一場面に変わった瞬間だと孝之氏は語る。

「そこで、父に弟子入りを志願したのですが、反対されました。自分と同じ仕事をやっているだけでは、とても食っていけないと感じたからでしょう。それでも、古くから続く仕事が消えるのは惜しいという気持ちが勝り、職人の道へ入り、父に師事しました」

孝之氏の仕事道具。右上に写っている糸ノコを使って切り取った板を、丸タガネで叩いて立体にしていく。

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「もうこいつを育てるしかない」  >

著者紹介

三浦孝之(みうら・たかし)

錺簪(かざりかんざし) 職人

1967年、東京生まれ。デザイン専門学校を卒業後、広告代理店で、デザイナーを志す。25歳のとき、祖父の死をきっかけに家業である錺簪の仕事を継ぐことを決意。歌舞伎や日本舞踊といった舞台用の簪の製作を中心に活動している。

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