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指示をするとき「あとで」「ちょっと」と言ってはならない!

2017年09月04日 公開
2023年03月31日 更新

前川孝雄(FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

一見ムダな雑談時間も、本当は重要

写真:photolibrary

部下への指示がきちんと理解されずにやり直しになったり、報告や連絡が行き違いになって誤解が生じたり……、コミュニケーションのミスは、仕事を滞らせる原因となる。職場改革のプロであり、ダイバーシティにも詳しい前川孝雄氏に、仕事のムダをなくすコミュニケーションについてアドバイスをいただいた。《取材・構成=前田はるみ》

 

「普通はこう」という意識を捨てよう!

近年はダイバーシティの潮流を背景に、職場でのコミュニケーションがより難しくなっているのを感じます。年代や性別、国籍を超えて、価値観や働き方の異なる人たちが一つの組織に集うようになり、日本企業でこれまでなんとなく不文律として浸透してきたことが、通じなくなってきているのです。

そのため、上司は伝えたつもりでも、部下にすれば「それ、聞きましたっけ?」といったコミュニケーションのズレが至る所で起きています。その結果、互いの理解不足や誤解から、仕事のやり直しにつながるなどのムダが生じているのです。

こうしたコミュニケーションのズレを引き起こす要因の一つに、言葉の定義が人によって違うことが挙げられます。

たとえば、部下から声をかけられたものの、手が離せなくてすぐに応じられない場合、あなたならどう答えますか。「ちょっと待って。後で声をかけるから」と答えるか、あるいは「一時間後に手が空くから、もう一度声をかけてくれる?」と答えるか。これを管理職研修で問いかけると、参加者の多くは、上司から声をかけるべきだとして前者を選びます。

しかし、「ちょっと待って」の「ちょっと」とは、何分のことでしょうか。上司は1時間のつもりでも、部下は10分程度と解釈するかもしれません。部下にすれば、いつまで経っても上司から声がかからず、仕事の手を止めたまま1時間も待つというムダが生じます。部下への指示では、定義の曖昧な言葉は避けるべきで、先ほどの例では、「1時間後にもう一度声をかけてくれる?」が正しい選択です。

同じように、「普通はこうするよね」という言葉もよく聞かれますが、この「普通」も人によって違います。たとえば、「部下に仕事の計画を立てさせても、報告に来てくれない。普通は自分から報告するよね」という上司がいるとします。

これは、「普通」なのでしょうか。部下が報告をしないのは、その段階で報告する必要がないと思っているせいかもしれませんし、単にそのように教育されていないだけなのかもしれません。こういう場合は、上司から声をかければすむことでもあります。「普通はこうだ」と決めつけないことは、ムダな誤解や理解不足を防ぐためには重要です。

 

あえて「雑談の時間」を作る意味とは?

そもそも、一度伝えただけで、相手が百パーセント正しく理解することは難しいと思います。

昔は、組織に人的・時間的な余裕があったため、雑談や飲み会の場で「ああでもない、こうでもない」と議論しながら、コミュニケーションのズレや不足を埋めることができました。しかし、今は効率や生産性を追求するあまり、雑談などの機会が削ぎ落とされてしまっています。このことが、先ほど述べたダイバーシティの進展に加えて、職場でのコミュニケーションをより一層難しくしているのです。

とはいえ、今は子育てや介護などで働き方に制約や制限のある人が増えており、就業時間外の飲み会が最善の方法とは言えません。であれば、飲みニケーションに代わる今の時代に即したコミュニケーションの機会を、時間内で工夫するしかないと思います。

たとえば、私が経営する会社では、長期休暇後の最初のミーティングでは、休暇中の出来事について皆で一時間ほど話します。また週に一度、その週に読んだ本を互いに紹介し合う時間を設けています。仕事に直結するわけではありませんが、相互理解に大変役立っています。

一見するとムダに思える雑談も、コミュニケーションのズレや不足を補うためにはあえて必要ではないでしょうか。

 

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著者紹介

前川孝雄(まえかわ・たかお)

〔株〕FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師

1966 年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。〔株〕リクルートで『リクナビ』『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち、2008 年に〔株〕FeelWorks 設立。「上司力研修」「50 代からの働き方研修」などで400 社以上を支援。2017 年に〔株〕働きがい創造研究所設立。〔一社〕企業研究会研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業審査員なども兼職。
独立直後には、「700 通の挨拶状を送るも反応ゼロ」「仕事の依頼がなく近所の公園で途方に暮れる」といった挫折を味わう。そこから立ち直った経験から、近年はミドルの転職・独立・定年後のキャリアの悩み相談に乗る機会も多い。
著書は、『上司の9割は部下の成長に無関心―「人が育つ現場」を取り戻す処方箋』(PHPビジネス新書)、『「働きがいあふれる」 チームのつくり方』(ベスト新書)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう転職はさせない! 一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)など多数。

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