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校閲のプロが教える、「マジ書けない!」人のための文章の書き方

2017年11月21日 公開
2023年03月23日 更新

前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

コツは「骨」から始めて「肉付け」すること


写真:photolibrary

資料やビジネス文書を作るとき、必ず必要になるのが文章を書くことだ。どれだけ美しいデザインで見やすいレイアウトにしようとも、中身の文章が読みづらければ伝わらない。ベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏に、ビジネス文書作成に必須の文章力の磨き方についてうかがった。《取材・構成=塚田有香》

 

「地震が来たら火を消す」のどこがいけない?

企画書や報告書を作ったものの、読んだ人から「文章がわかりにくい」と言われてしまう……。その原因は、いくつかあります。

まずは、読み手の立場になって書かれていないこと。「自分がわかっていることは、相手もわかっているだろう」という思い込みのもとに書かれた文章は、正しく伝わりません。

たとえば、よく防災ポスターにこんな文章が書かれています。
「地震が来たら、火を消しましょう」
これは日本語として、何も間違っていません。でも、読み手はどう思うでしょうか。
「地震が来たら、どの段階で火を消せばいいのだろう。グラッと来た瞬間かな、それとも揺れが収まってから?」――そう戸惑う人が一定数いるはずです。これでは、メッセージが伝わったとは言えません。

その原因は、文章の書き手と読み手の間にある「前提のズレ」です。防災機関や専門家の間では、「地震が来たらその場で身の安全を確保し、いったん揺れが収まってから火を消す」が常識です。よって防災ポスターの作成者も、それを前提に文章を書いたと考えられます。

しかしそれは、一般の人にとっては常識ではありません。なかには「グラッときたら、すぐに火を消すんだな」と解釈する人もいるでしょう。その結果、実際に地震が来たとき、慌てて火を消しに行って、転倒したりやけどをしたりする人が出る危険性があります。

文章で正しく意図を伝えるには、「必要かつ十分な条件」を提示しなくてはいけません。わかりやすい文章を書くには、読み手の立場になり、「何を伝えれば十分か」を意識することが不可欠です。そのためには、「同じ言葉でも、自分と相手では定義が異なるかもしれない」ということを、常に頭に置きましょう。

 

「骨格」を書いてから「肉」を付け加える

もう一つ、わかりにくい文章の問題点として多いのが、「骨格がおかしい」ということです。
文章は、「骨格」と「肉」で構成されます。
「今年の夏は、例年より平均気温が低く、寒かった」
この文なら、「今年の夏は~寒かった」が「骨格」で、他は理由や状況を説明する「肉」の部分です。この骨格さえしっかり組み立てられていれば、文章はわかりやすくなります。

では、次の文はどうでしょうか。
「この本は新書なので、値段が安く、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ新書だ」
意味がわかるようで、何が言いたいのか伝わってこない。そんな文章です。その理由は、骨格にあります。この文章の骨格を取り出すと、こうなります。
「この本は新書なので~新書だ」
これでは、主語と述語の関係が成り立ちません。では、骨格を直してみましょう。
「この本は新書なので値段は安いが、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ」
これなら骨格は、「この本は新書なので~仕事に役立つ」となり、主語と述語の関係性がはっきりします。

さらにわかりやすくするには、こう直すといいでしょう。
「この本は新書なので、値段が安い。しかし、ロジカルシンキングについて詳しく書いてあるので、仕事に役立つ」
まず骨格となる「この本は新書なので、値段が安い」を言い切り、その後に肉となる「値段が安くても、仕事に役立つ理由」を挙げています。一つの文章の中にあった「骨格」と「肉」を二つに分けたことで、よりわかりやすくなりました。

最初に挙げたNG例のような文章になってしまうのは、骨格を書き切らないうちに、肉づけしようとするから。まずは短い文章で骨格を書き、そこから肉を付け足していくのが、わかりやすい文章を書く基本です。

 

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著者紹介

前田安正(まえだ・やすまさ)

〔株〕朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長/未来交創ビジョンクリエイター

早稲田大学卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋本社編集センター長補佐、大阪本社校閲マネジャー、用語幹事、東京本社校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを歴任。国語問題、漢字幹事についての特集や連載、コラムを担当。朝日カルチャーセンターのエッセイ教室や早稲田大学生協主催の就職支援講座にも出講。「文章の直し方」など、企業の広報研修も多数手がける。著書に、『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)などがある。

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