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アルツ磐梯/猫魔スキー場の「パーク」

2017年12月01日 公開
2023年07月12日 更新

<連載>続・星野リゾートの現場力(4)

一流選手も練習に通う「スキー場の職人」

日本を代表するリゾート運営会社・星野リゾートでは、「遊び」や「楽しみ」の中に仕事のヒントを見つけたり、逆に仕事をきっかけとした趣味を楽しんだりしている社員が多いという。そのような「遊びと仕事」の融合の事例を『THE21』の誌面で紹介してきた連載「星野リゾートの現場力」を、オンライン限定連載として継続。第4回は、東北有数のスキー場「アルツ磐梯」より、自らもプロのスノーボーダーを目指した経験を持ち、アルツ磐梯・猫魔スキー場で「パーク」を造成するスタッフをリポート。《取材・構成=前田はるみ》

 

自由な発想から生まれた、ただひとつのパーク

ウインタースポーツの季節がやってきた。福島県・磐梯山の麓にある東北有数のスキー場「星野リゾート アルツ磐梯」では、誰でもスキーやスノーボードで遊べる「パーク」を今年も展開する。パークとは、雪で作られたジャンプ台や、鉄などの人工物で作られたレールやボックスなど、さまざまな障害物が設けられたエリアのこと。技に自信のある一部の上級者だけが立ち入れる場所というイメージが強いが、フリースタイルの初心者も、さらには未経験者も気軽に楽しめるように作られているのが特長だ。

スピードがほとんど出ない飛距離100㎝のジャンプ台から、中級レベルの10mジャンプが飛べるジャンプ台まで、段階に応じたアイテムが最大25個設置される予定だ。パークに初めて挑戦する人が、段階を踏んで少しずつ上達できるようにという狙いがある、その名も、テーマであるSTEP BY STEPの頭文字を取って「SBSパーク」だ。

このパークの造成を担うのが、ここで働く山田雄二さん率いる造成チームである。山田さんは、パーク造成に携わって23年の大ベテラン。2009年にアルツ磐梯で開催されたフリースタイルのアジア大会と日本オープンでも、大会のコース造成で中心的な役割を果たした。同じく星野リゾートが運営する県内の「猫魔スキー場」のパーク造成も担当している。

山田さんにとって、今の職場はいろいろなことにチャレンジでき、やりがいを感じられる環境だ。星野リゾートでは、施設ごとにどのような魅力を発信していくのかを現地スタッフが議論する「魅力会議」を通じて、現場主導でサービスを進化させていく文化が根づいている。SBSパークも、魅力会議での自由な発想から生まれた「ここにしかない」パークだ。昨年同社が実施した調査では、アルツ磐梯を訪れる人の約10%しかパークを利用していないことが判明。「ゲレンデを滑るすべての人に一度はパークで遊んでほしい」。そんな思いが発端だった。

「やってないことはないんじゃないかと思うくらい、パークに関していろんなことに挑戦してきました。これらはすべて自分の財産になっています。常に進化を求められるのは大変な部分もありますが、充実感や達成感は大きいです」と山田さんは話す。

 

スキー競技の「楽しさ」と「安全」を両立

誰もがフリースタイルを楽しめるパークを展開するアルツ磐梯に対し、上級者向けのアイテムを揃えるのが猫魔スキー場だ。国内最大級の20mのジャンプ台をはじめ、まるで遊園地のジェットコースターのように1回転ループができるループレールも今年の目玉である。鬼塚雅選手、岩渕麗楽選手、佐藤瞳選手など、世界を目指すトップレベルの選手が県外からわざわざ練習に訪れるほど、パークのクオリティはスキーヤーやスノーボードから高く評価されている。

パークの造成は、重機を使ってゲレンデの雪を集めジャンプ台を作ったり、人工物で作ったレール状やBOX状のアイテムを設置したりして、コースを作っていく。フリースタイルに馴染みの薄い人にはイメージしにくいかもしれないが、「簡単そうに見えて、実はとても難しい」と山田さんは話す。ゲレンデの地形を生かしながら、自然の雪を使い、その時々の状況に応じて作る必要があるからだ。

特に技術を要するのが、雪で作るジャンプ台だ。「ジャンプ台から飛び出す角度やスピードによって、ジャンプの浮遊感が変わります。浮遊感を味わいつつも、安全に飛べるジャンプ台をどのように作るのかは、どのスキー場も試行錯誤している部分だと思います」

山田さんは、ゲレンデの斜度や滑走スピード、さらにジャンプ台から飛び出す角度ごとの飛距離を計測して、安全かつ楽しめるジャンプ台を作る手法を独自に編み出した。それらを雪で正確に再現するための技術も磨いた。大きな重機を自在に操ることで、1度という細かい単位で角度を調整できる技術は山田さんの強みである。

パーク造成の最新技術を学ぶために、アメリカ・オレゴン州マウントフットをはじめ海外で開かれる講習会にもこれまでに2度参加している。そこで学んだ技術やノウハウは、アルツ磐梯や猫魔スキー場のパーク造成に取り入れている。ハイブリッドジャンプ(※注)はそのひとつ。ジャンプは高く飛べば飛ぶほど、着地までの浮遊感が味わえるが、そのぶん危険も伴う。ハイブリッドジャンプは、テイクオフ(ジャンプの飛び出し)とデック(ランディングまでのフラットな部分、着地部分)の高低差をなくすことで、失敗したときのリスクを減らしつつ、適度な浮遊感を味わいながら安全に滑ることができるというもので、これもアルツ磐梯と猫魔スキー場の自慢のアイテムである。

 

※テーブルトップジャンプ(浮遊感少ない・初心者ジャンプ・一番安全なジャンプ形状)、ステップダウンジャンプ(浮遊感最大・上級者ジャンプ・落差が大きいジャンプ形状)の二つのジャンプが主流で、ハイブリットジャンプは両方のいいとこどりのジャンプ形状。より安全に浮遊感を味わえるのが特徴。

 

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