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「空き家物件の再生」は、世の中をどう変えるか?

2018年03月18日 公開
2021年08月30日 更新

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東京経済大学公開講座

今、世の中で叫ばれている「空き家問題」。2013年時点における日本の空き家は820万戸にのぼり、空室率は13.5%と先進国最高水準となっている。この問題に対し、空き家を再生させ人気物件にすることで解決に取り組んでいるのが、ハウスリンクマネジメントの菅谷社長だ。一方、ソーシャル・マーケティングの専門家として、マーケティングの視点から社会問題の解決を目指しているのが、東京経済大学の小木教授だ。今回、その小木教授のゼミに菅谷社長が参加し、空き家問題や不動産業界の現状について討論。その様子をレポートする。

取材・構成:編集部
写真撮影:長谷川博一
 

どんな物件も工夫次第で「再生」できる

小木 菅谷社長はこの東京経済大学を卒業後、エネルギー関連企業、不動産会社を経て独立。市場に流通していない「空き家」を大規模修繕し、人気物件に再生することで、不動産の流通とビジネスをうまく融合されています。今日は学生が不動産業界の実情を知る貴重な機会ですので、ぜひ、いろいろとお話をお聞かせください。

菅谷 ぜひオープンな議論ができればと思いますので、よろしくお願いします。

学生 最初にうかがいたいのですが、なぜ「空き家」に注目されたのですか。

菅谷 私が不動産業界に入ったのは、前職でのお客様が不動産投資をしていたのがきっかけです。自分でもやってみようと500万円の物件を取得し、セルフリフォームしたところ、相場より高く賃貸ができました。「工夫すれば、喜んで住んでくれる人がいる」と考えるようになりました。リニューアルで必ず魅力ある物件になると考えているのです。

学生 最近、全国的に空室が増えているそうですが、どんな物件が空室になってしまうのですか。

菅谷 建物側の問題として築年数と設備の老朽化がありますが、運用側の問題として、何もしないオーナーが非常に多いことがあります。賃貸経営は需要と供給のバランスで空室が埋まります。新築など賃貸が増える中、部屋を魅力的に見えるような工夫を継続しなければ、空き部屋は埋まりません。

学生 どんなリフォームをしたら、空室が埋まるのですか?

菅谷 いろいろありますが、最近特に求められているのは、豪華さや便利さより「全体的にきれいな部屋」ですね。それも、入った瞬間にひと目で「清潔感があるかどうか」が重要です。
ただ、実際には空室の理由は、部屋によってさまざまです。だから私が重視しているのは、まずは「なぜ入居者が入らないのか」の理由を考え、その理由を「変えられるもの」と「変えられないもの」に分けることです。
たとえば、駅から遠いという立地は変えられませんが、内装の汚れや設備は変えられる。そうして、変えられるものを変えていくという発想をしています。

小木 これはとても大事な発想です。物事の解決策を考えるうえで、いきなり「空き家を埋めよう」と考えると、どうしても小手先の対策になってしまいがち。まず理由を考え、それに基づいた解決策を出し、実行する。ソリューションはその一連の流れからしか生まれません。
 

「保育所」「社宅」……空き家再生のアイデア

小木 そもそも空き家問題はなぜ起きているとお考えですか。

菅谷 やはり大きいのは人口減少だと思います。また、今までは3世代で暮らすのが普通だったのが、核家族化で1世帯の人数が減り、広い家が必要なくなってきた。そうしたニーズの変化も一因だと思います。

学生 空き家はどんな問題を生むのでしょうか。

菅谷 たとえば一軒家で一人暮らしの方が亡くなり、相続の問題等で空き家のまま放置されると、家は当然、荒れてしまいます。結果、景観が悪くなり、災害で倒壊することもあります。放火される恐れもある。

小木 また、空き家ばかりになるとその地域にコミュニティが形成されないという問題もありますね。

学生 たとえば待機児童の問題を空き家の活用で解決できるのではないですか。

菅谷 確かに可能だと思いますが、残念ながら家は個人資産であるため、行政がとやかく口出しできません。ただし、危険な建物は行政が差し押さえのうえ、処分できる仕組みもできてきています。

学生 社宅として空き家を使うという手もあるのでは?

菅谷 これもいいアイデアです。実はバブル崩壊後、企業は経費節減で社宅減の傾向にあったのですが、最近また見直されているのです。企業としては福利厚生の充実で優秀な社員を確保したいという狙いもあります。

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