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「宅配危機」から見えてきた日本の問題点とは

2018年05月05日 公開
2022年06月09日 更新

田中道昭(連載「アマゾンの大戦略」に学ぶMBA講座 第2回)

米企業を恐怖に陥れる「アマゾン・エフェクト」

「アマゾン・エフェクト」(Amazon Effect、以下アマゾン効果)という言葉が、米国内外で注目を集めています。元々はアマゾンがECや小売業界に影響を与えていることを意味していたものが、最近ではさまざまな産業や国の金融・経済政策にまで影響を及ぼしていることを意味するまでになってきています。

アマゾン効果の影響を端的に表現したものには、「アマゾン恐怖銘柄指数」が挙げられます。この指数は英語の原語では「デス・バイ・アマゾン」(Death by Amazon)と呼ばれ、アマゾンの収益拡大や新規事業参入、買収などの躍進の影響を受け、業績が悪化すると見込まれる小売関連企業54社で構成されています。百貨店のJCペニー、書籍チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル、事務用品のステープルズなどが含まれています。アマゾン効果の影響を受けやすい上場企業群ともいえるでしょう。

なお、アマゾンがホールフーズを傘下におさめた2017年8月以降、米国ではアマゾンが「ダイナミックプライシング」という価格最適化の対象を拡大、モノの値段、物価が下がるという期待と懸念が交錯しています。とくにP&GやJ&Jといった消費財メーカーは、価格低下への懸念とアマゾンによるPB商品拡大への懸念とが相俟って、大きな影響を受けると予想されています。

 

「アマゾン効果」は小売にとどまらない!

日本でも、従来想定されてきたECや小売はもとより、今後、数年単位で見れば、花王、ライオン、ユニ・チャーム、サンスターといったメーカーも大きな影響を受けるのではないかと考えられます。アマゾン効果の対象は、もはや小売や流通にとどまらないという認識をもつことが極めて重要です。

さらにアマゾン効果は、最近では国の金融・経済政策への影響までをも意味するようになってきています。とくにホールフーズの買収以降、アマゾンの低価格戦略がリアル店舗にも拡大され、国全体の物価までもが押し下げられるのではないかという懸念が金融当局の間でも共有されているといわれているのです。

EC、物流、クラウドコンピューティング、リアル店舗への展開、ビッグデータ×AI、そして宇宙事業。「世界一の書店」から、「エブリシング・ストア」、さらには「エブリシング・カンパニー」へと、そしてEC企業、小売企業、物流企業、テクノロジー企業へと変貌を遂げてきたアマゾン。

日本でも昨年はヤマト運輸とアマゾンとの宅配料金を巡る交渉の状況が注目を集めましたが、「宅配危機」の主因の1社とも指摘されるほど、アマゾンは影響力を増してきています。

今回は、この「宅配危機」をケーススタディーとして、ロジカルシンキングのなかから、「PEST分析」と「3C分析」を取り上げたいと思います。

PEST分析は、業界・企業・商品等に対する変化を分析するツールです。そして3C分析は、そのPEST分析も活用して、自社の状況を分析したり、自社の戦略を考えるツールとなります。

それではいっしょに、「宅配危機」からロジカルシンキングを学んでいきましょう。

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「宅配危機」はなぜ起きたのか? >

著者紹介

田中道昭(たなか・みちあき)

立教大学ビジネススクール教授

シカゴ大学ビジネススクールMBA。戦略論を専門として、経営を中核に政治・経済・社会・技術の戦略を分析する「戦略分析コンサルタント」でもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長などを歴任。現在、株式会社マージングポイント代表取締役社長。著書に、『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)など。

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