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ブランド化に成功した「今治タオル」が、今、銀座に出店する理由

2018年06月14日 公開

藤高豊文(〔株〕藤高 社長)

創業1919年の老舗、国産タオル売上No.1メーカーの新たな挑戦

 昨年開業し、東京・銀座の新たなランドマークとなった大型商業施設GINZA SIX。そこから、わずか徒歩1分の場所に、6月20日(水)、「FUJITAKA TOWEL GINZA」がオープンする。大正8年(1919)に創業し、国産タオルの売上No.1を誇る〔株〕藤高の直営店だ。同社社長・藤高豊文氏は、2006~09年に今治タオル工業組合(当時は四国タオル工業組合)の理事長を務めたときに、「今治タオル」をブランド化した人物でもある。藤高氏は、なぜ、今、銀座に出店するのか?

 

増え続ける中国製タオルに、どう対抗したか?

 ――今治タオル工業組合(当時は四国タオル工業組合。以下、「組合」)の理事長に就任した2006年、組合はどんな状態だったのでしょうか?

藤高 組合員は危機感を強めていました。中国からのタオルの輸入が急増して、輸入浸透率が約80%にまで達していたからです。このまま増え続ければ産地は消滅したでしょう。

 しかも、組合の求心力は低下していました。

 2001年に、日本タオル工業組合連合会が、中国製とベトナム製のタオルの輸入に対するセーフガードを経済産業省に申請しました。そのとき、今治だけでなく、三重、北九州、東京、泉州(大阪)という全国のタオル生産地が全業者に協力を求め、98%から賛同を得ました。

 しかし、中国による対抗措置を懸念してか、セーフガードはなかなか発動されませんでした。そして、繊維製品のセーフガードは、制度自体が2004年末で終了することになっていましたから、その直前に、ついに発動されないまま、申請を取り下げることになりました。

 大変な思いをして賛同を集めたのにもかかわらず、セーフガードが発動されなかったことで、組合員の心が組合から離れたのです。

 さらに、組合には13億円もの借金がありました。バブル期に、東洋紡の工場の跡地を買ったときに作った借金です。買った土地の半分は、組合と今治繊維リソースセンターという第三セクターが使い、あとの半分は値上がりを待って転売しようという目論みでした。ところが、バブルがはじけてしまい、売れないまま塩漬けになっていたのです。

 ――そんな状態から、どうやって今治タオルのブランディングに取組んだのですか?

藤高 当初、原資として考えていたのは、その塩漬けになっていた土地を貸していた量販店からいただいていた賃料でした。年間3,000万円ありました。

 ところが、外資系のファンドが、その量販店の営業権と一緒に、組合所有の底地を売ってほしいと言ってきたのです。これは、一気に借金をなくす千載一遇のチャンスだと思いました。

 けれども、提示された金額は、13億円よりもはるかに少なかった。これで売却すれば、その不足額分の借金が、そのまま残るだけになります。とりあえず、私は断りました。無論、駆け引きです。そうしたら、周りから総スカンですよ(笑)。

 でも、3回断っても、相手はやって来ました。提示額を高くしてきたので、売却を決め、借金をほぼ帳消しにすることができました。

 とはいえ、借金をほぼ帳消しにできただけで、今治タオルをブランディングするための原資はなかった。そこで、2004年度に中小企業庁が始めた「JAPANブランド育成支援事業」に申請しました。これに採択されると、3,000万円の補助金が得られたのです。そのうち、中小企業庁が3分の2を負担し、地元の自治体と商工会議所が6分の1ずつを負担する、というものです。

 実は、最初、私は、「JAPANブランド育成支援事業」に申請することは考えていませんでした。タオルメーカーは大都市の問屋と取引をしているので、地元の自治体や商工会議所とは疎遠だったのです。果たして協力してくれるのだろうかと、懐疑的に思っていました。

 しかし、それは杞憂に過ぎませんでした。今治市や今治商工会議所の方々は、非常に熱心に協力してくれ、ブランディング事業を側面から支えてもらいました。

 

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著者紹介

藤高豊文(ふじたか・とよふみ)

〔株〕藤高 代表取締役社長

1949年、愛媛県今治市生まれ。73年、神戸大学経営学部卒業後、市場調査会社で3年勤務。75年に〔株〕藤高大阪に入社し、藤高本社、東京事務所を経て、90年に本社および子会社の社長に就任。2006~09年、「今治タオル工業組合」(当時は「四国タオル工業組合」)理事長を務めた。

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