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時代を超えて求められる「人を大事にする」経営

2019年01月21日 公開
2019年02月15日 更新

《PR》提供:城北化学工業株式会社

特別対談:注目の経営者×松下幸之助の哲学

精密化学品を中心とした化学工業メーカーとして、この低成長の時代に6年連続最高売上げを更新している城北化学工業。その経営哲学は、パナソニック創業者松下幸之助と多くの共通点がある。同社の大田友昭社長と、松下幸之助研究の第一人者である佐藤悌二郎氏が、現代に求められる経営について語る。

大田友昭(城北化学工業代表取締役社長)× 佐藤悌二郎(PHP研究所専務執行役員)

大田友昭(写真右)
1964年、東京都生まれ。米国サザンメソジスト大学経営学修士(MBA)。大手外資系企業勤務後、父の急死にともない36歳で社長就任。グローバルニッチとしての製造業経営、同時多発テロ、リーマンショック、震災を乗り越えながら、哲学と歴史を注視した独自経営を実践。リーマンショック後、5期連続増収を記録。2001年就任時より売上を倍増させ、後継者難時代に中堅経営者として一石を投じる。ジャパンタイムズ紙アジアのCEO100人。リーダーズアワード日本の社長50人に選出。ENJAGlobal500にプロフィール掲載中。サザンメソジスト大学MBA卒業生同窓代表。

佐藤悌二郎(写真左)
1980年、慶應義塾大学卒業後、PHP研究所に入社。研究員としてPHP理念および松下幸之助の経営観の研究に従事するかたわら、関連書籍、カセットテープ集などの原稿執筆、編集、制作に携わる。その間、松下幸之助所長を中心としたPHP理念研究会に出席し、PHP理念をまとめる作業を行なう。『松下幸之助発言集』(全45巻)編纂グループの主担当として、93年2月に完成させる。2014年12月専務取締役。17年12月から現職。西武文理大学特命教授、企業家研究フォーラム理事。
 

躍進を続ける企業の「強さの秘密」とは?

経営者の「カン」はどのように磨かれるのか

佐藤 大田社長は急死したお父様の後を継ぎ、36歳で社長に就任。その後会社を大きく成長させてこられたわけですが、当初はご苦労があったのではないですか。

大田 父親の元で働いた期間はわずか1年でしたから、まさに何もわからない中でのスタートでした。それ以前は外資系企業に勤め、アメリカのビジネススクールにも通いましたから、文化の違いにも戸惑いましたね。
ただ、それが良かったのかもしれません。そもそも経営には、教科書なんてありません。その場その場で直観的に判断するしかない。もし、父親という手本があったら、それに頼ってしまっていたでしょう。

佐藤 大田社長はご著書の題名にもされるほど、「直観力」を大事になさっていますね。これは、松下幸之助が言うところの「カン」と同じだと思います。
幸之助は、「カンは科学と同じくらい重要」だと言っていました。
では、どうすればカンを持つことができるかというと、「自分の仕事を心から好きになり、厳しい自己鍛錬を重ねていくことで、科学でも及ばない正確なカンが養われる」と言っています。
大田社長は、直観力はどうしたら身につけられるとお考えですか。

大田 松下さんのおっしゃることに尽きますが、一つ付け加えるなら、「何もない時間を作る」ことが重要だと思っています。たとえば出張での移動中、あえてボーッとしていると、ずっと考え続けてきた問題の解決策がふっと浮かぶようなことがあるわけです。
ただ、それはやはり、昼も夜も常に会社のことを考えているからこそだと思います。作り話という説もありますが、ニュートンが木から落ちるリンゴを見て万有引力を発見したのも、常に問題意識があったからにほかなりません。

佐藤 幸之助も「経営者は体は遊んでいても心を遊ばせてはいけない」と言っていて、たとえばゴルフをしているときでも、常に頭のどこかで経営のことを考えていることが大切だと主張しています。
大田社長のお考えには、幸之助の哲学と通じるところがいくつもありますね。例えば、経営において「客観性」を大事にされているのは、幸之助の「素直な心」と通じるものを感じます。
何物にもとらわれない、曇りのない心で物事を見れば、何をなすべきか、なすべきでないかが見えてくる。

大田 変化の激しい時代についていくためには、自分をいったんゼロにして、客観的に見る視点が不可欠だと思うのです。
私はテニスが趣味ですが、相手のサーブを待つ際、どこにボールが飛んできてもいいように自然体で構えます。これと同じような感覚かもしれません。
 

「長期の視点」 そして「時を待つ心」

佐藤 経営判断の際には、何を最も重視されているのですか。

大田 意識しているのは「長期的な視点で見て、会社を成長させることができるか」です。
毎年2ケタ成長を続けるなんて現実的ではありませんし、それを目指すとどうしても無理が出てしまう。一方、長期の視点があれば、会社は無理なく成長できる。
その考えのもと、経営を続けてきた結果、社長就任時と比べ売上げは2倍になっています。
それに一つ加えると、タイミングだと思います。どんなにいいアイデアや解決策でも、それがタイミングを逸していたら通用しません。

佐藤 確かに幸之助も「時を待つ」ことの重要性について言及しています。

大田 私が松下さんの判断で印象に残っているのは、ビデオテープにおけるVHSとベータの話です。これはアメリカのビジネススクールでケーススタディになるほどよく知られた話なのですが、後発だったVHSが、最終的に松下電器が採用したことで争いに勝利した。その判断基準はなんだったのですか。

佐藤 幸之助は「ソニーさんの機械は100点満点だけど、VHSは200点だ」と言ったということですが、判断基準はあくまで「消費者目線」でした。
一番の違いは拡張性で、VHSは3倍モードにすることで6時間もの録画が可能でした。顧客にとってそれは大きなメリットとなる。先行していたのはソニーですが、最終的には消費者目線からVHSを選んだのです。
ただ、面白いのは、幸之助は同時に「ベータとVHSを両方再生できる機械が作れないか」という指示を出しているのですね。技術的にはどう考えても不可能なのですが、幸之助がいかに消費者の便宜と業界全体の共存共栄を考えていたかがわかるエピソードです。
大田 なるほど。業界全体の共存共栄という発想は、日本独自の非常に重要な考え方だと思います。アメリカはもちろん、中国や韓国の企業も、「どうやって相手を出し抜こうか」という発想が強いような気がします。

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