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ブレグジットの次のシナリオは、「日英同盟」の復活!?

2019年07月01日 公開
2023年09月27日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

日本人が知らない「国際ニュースの核心」

激動の国際情勢を、一段深く理解したい。そのためには、世界史の知識が欠かせない。この連載では、世界史を大きなストーリーとして捉える見方でおなじみのカリスマ塾講師・茂木誠氏が、現在の国際情勢の歴史的背景を、キーワードで解説する。

 

EUの原点はドイツの「封じ込め政策」

 EU離脱を決めた国民投票から2年。イギリスは今年3月、ついにEUから離脱します(※今年1月時点での情報を掲載した記事をオンラインに転載しております)。なぜ、EU離脱を選んだのか。それを理解するには、「EUとは何か」を押さえる必要があります。

 EU誕生の背景には、「ドイツを封じ込める」狙いがありました。ドイツは二度の世界大戦を通じて周辺国を恐怖に陥れたヨーロッパの「暴れん坊」です。

 第二次世界大戦の敗北で東西に分断されると、ドイツの弱体化を目論む西ヨーロッパの国々は、西ドイツを含む6カ国で経済共同体を作り、ドイツを無力化しました。これが1967年に発足したEUの前身、EC(ヨーロッパ共同体)です。

 その後、冷戦終結とともに、ソ連と東ドイツが崩壊。東西ドイツが統一されます。「暴れん坊のドイツ」の復活を恐れた周辺国は、93年、統一ドイツを丸ごと囲い込むため、国家統合と通貨統一を柱とするEU(ヨーロッパ連合)を立ち上げ現在に至ります。

 EC発足当初、イギリスはECに不参加でした。大陸国家と距離を取ってきたからです。

 島国イギリスの国家戦略は、ヨーロッパ大陸の統一を阻止し、巨大帝国と敵対する国々と手を結んで分断し、いがみ合わせることでした。ナポレオン時代はフランスを封じ込めるために対仏大同盟を組み、二度の世界大戦では、ドイツを封じ込めるべくフランスと手を組んでいたのです。

 そうした背景から、欧州統合に対しては消極的でした。

 そのイギリスが、73年にECに加盟したのはなぜか? 

 資源の乏しいイギリスは、数多くの植民地を作り、ヨーロッパに頼らず生きてきたのですが、第2次世界大戦後に植民地の独立が相次いだためです。

 ただし、ポンドは手放さず、移民も受け入れない。でも、市場だけは欲しい。いい所取りの加盟でした。

 しかし、イギリスの製造業はドイツに完敗しました。ユーロ導入後、経済力の乏しい東ヨーロッパ諸国が加盟し、ユーロの価値が下落した結果、皮肉にも輸出大国のドイツがユーロ安の恩恵を享受して、経済大国へと返り咲きました。相対的にイギリスはポンド高となり、金融業で生き延びることになります。

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著者紹介

茂木誠(もぎ・まこと)

世界史講師

東京都出身。駿台予備学校、ネット配信のN予備校にて、東大・一橋大など国公立志望者向けの世界史講座を担当する。歴史上の人物が憑依したかのようなドラマチックな講義スタイルで、学生からの支持も厚い。各種受験参考書に加え、『ジオ・ヒストリア』(笠間書院)、『「日本人とは何か」がわかる日本思想史マトリックス』(PHP研究所)など著書多数。近年はYouTube「もぎせかチャンネル」にも注力する。

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