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田原総一朗が語る 平成の「ターニング・ポイント」

2019年07月04日 公開
2022年10月06日 更新

田原総一朗(ジャーナリスト)

日本企業の明暗を分けたIT革命への立ち遅れ

 激動の平成を象徴するエピソードは数あれど、一つ挙げるならばIT革命だと田原氏は答える。その波に乗り遅れたことが国際競争力の低下を招き、現在まで尾を引いているからだ。

「89年、日本企業は世界の時価総額ランキングでトップ20社のうち14社を占めていた。しかし2018年、トップ20社のうち日本企業はゼロ。その代わり、GAFAを代表としたIT企業が軒を連ねた。日本企業では、世界と戦えるIT人材が育っていない。代表的なのがAIだろう。AI研究の第一人者である松尾豊によれば、日本の人工知能研究はアメリカの3周は遅れているという」

 原因はなんだったのか。

「規制が強すぎて、AIの研究者が育たなかったことだ。では、なぜ優秀な研究者を招しょう聘へいしないのか。それは、経営者がシャットアウトしているからだ。

 今、日本では新しい製品やサービスを作り出すゼロイチに挑戦する経営者は少ない。減点主義で成功してきたサラリーマン経営者は、失敗に対するリスクが取れないのだ。3~4回失敗していない人は相手にされないシリコンバレーに比べると、日本は土壌が整っていない」

 ただ、今ではその流れが少しずつ変わってきているという。

「ゼロイチをやらなければ、生き残れないことに日本企業が気づき始めた。その証拠に、トヨタ自動車やパナソニック、三井住友FGなど、日本を代表する大企業のメイン研究所は、シリコンバレーにある。パナソニックのシリコンバレー研究所で責任者を務める馬場渉は、『イノベーションの量産化』を掲げて頑張っている。

 戦後の日本を振り返ってほしい。こんな『守りの経営』をする経営者は少なかったはずだ。盛田昭夫や本田宗一郎、松下幸之助、彼らは皆チャレンジャーだった。

 特に、松下幸之助は印象的だった。僕が、取材で役員に抜擢したいのはどんな人物だと聞いたとき、彼はこう答えた。

『頭の良さ、関係ない。自分は中学までしか出ていない。では、健康か。違う。自分は半病人の経営者だ。では、何か。それは、難問にぶつかったときに、面白がれる人間だ』──。

 マスコミは日本の未来は暗いという。けれど、頑張っている人がいるうちは、日本の未来は明るいと、僕は信じたい」

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著者紹介

田原総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト

1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、フリージャーナリストとして独立。『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系列)では、生放送中に出演者に激しく迫るスタイルを確立し、報道番組のスタイルを大きく変えた。活字方面での活動も旺盛で、共著も含めれば著作は100点を超える。現在もテレビ、ラジオのレギュラー、雑誌の連載を多数抱える、日本でもっとも多忙なジャーナリスト。
おもな著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』『Twitterの神々』(以上、講談社)、『原子力戦争』(ちくま文庫)、『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』(以上、PHP研究所)ほか多数。

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