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後味の悪い小説~救いのなさと恐怖。この「毒」は、癖になる~

2019年11月30日 公開

<連載第4回>THE21編集長の敬愛小説案内~年間100冊小説読む隠れ文藝ファン~

劇薬のような忘れられない本、ありませんか?

後味の悪い小説が好きだ。

気になる本」でも何度か書いた気がするし、本連載で取り上げた貴志祐介先生櫛木理宇先生のダークサイドにもそうした後味を残す本がある。
ぞわりと背筋が粟立つ恐怖、鬼畜のごとき言動への嫌悪感、深くやり場のない悲しみ……。
そうした重苦しい気持ちで読み終える本は、心の奥深くに残って離れない。

「後味の悪い本」は一種の、癖になる「毒」だと思う。
爽快な物語や美しい物語ももちろん良いが、時には毒や劇薬のような本も読みたくなる。
そこで今回は、これまでに読んできた中で「後味の悪さのせいで忘れられない本」を、紹介したい。

 

『隣の家の少女』
ジャック・ケッチャム 著、金子 浩 翻訳
扶桑社文庫

1958年の夏。当時、12歳の「わたし」は、隣の家に引っ越して来た美しい少女メグと出会う。彼女は交通事故で両親を亡くし、妹とともに隣家のルースに引き取られたのだった。「わたし」はある日、ルースが姉妹を折檻している場面を見てしまい……。
最凶最悪の1冊。「ある夏、少年たちが一人の少女と出会う」という、そのさわやかな始まりに似つかわしくないグロテスクな物語展開から、ダークサイド版『スタンド・バイ・ミー』と呼ばれる。「後味の悪い本」で検索すると、本作が紹介されていることが結構な確率であると思うが、その評判通り、いい気持ちで読み終える人はおそらく存在しないと思われる作品だ。
ポイントはエスカレートしていく虐待と、それを見ながら、知りながら、少しずつ自分たちも関与していく少年たちの感覚が麻痺していく過程だ。人間とは流されるものである。そして、それは時に、人を追い詰めることもあるのだ。

 

『さむけ』
祥伝社文庫
井上雅彦、倉阪鬼一郎、新津きよみ、高橋克彦、山田宗樹、多島斗志之、夢枕獏、京極夏彦、釣巻礼公 著

タイトル通り、「さむけ」がするようなおぞましい話ばかり集められたアンソロジー。
中でも個人的には、「天使の指」(倉阪鬼一郎著)が最も心に残っている。主人公の男性が参加する年に一度の会では、ある「儀式」が行われ、「選ばれた人物」はある代償の代わりに必ず大きな成功を収める……というもの。
様々な小説を趣味として日常的に読んでいると、面白いと思った物語でもタイトルを聞いただけでは思い出せない程度に内容を忘れてしまうことがあるのだが、この作品だけは、できれば忘れたいのに、細部にわたるまで記憶にずっと残って離れない。それくらい鮮烈に恐ろしい物語だった。
この作品には三つの怖さがある。一つは、物理的・肉体的な「痛み」をリアルに想像してしまう怖さ。スプラッター的なそれである。もう一つは「信じられるはずの人に、あるとき突然裏切られる」という、心理的な怖さ。そして一つは、妄信が人を変えてしまうことに対する怖さだ。欲と妄信の前に、人は大事なものをも犠牲にするーーそれは決してリアリティのない話ではない気がするのだ。

 

『他人事』
平山夢明 著
集英社文庫

「物理的・肉体的な痛み」と前述したが、そんな痛みを感じられる話をもっと読みたい人には、平山夢明先生の本をお勧めしたい。短編集の傑作が多い著者だが、本作は1編1編が特に短く読みやすい。ただ、そこに綴られているのは鬼畜の所業で、目を背けたくなるような内容なので注意。ただ、私を含めこんな猛毒のような本が好きな人間には堪らない恐怖だ。
個人的には、高齢者に対する国の保障などがなくなった日本を舞台にした「定年忌」が面白かった。藤子・F・不二雄先生が描いた「定年退食」という傑作短編漫画があるのだが、それと少しだけ似た設定で更にブラックにしたような内容。超高齢社会という社会問題とリンクしているせいで、完全にフィクションではあるが、どこか「こんな世の中が来ないとも限らない」と思えてしまう恐怖がある。
本作については、あとがきを漫画家の冨樫義博先生(『幽遊白書』『レベルE』『HUNTER×HUNTER』など)が書いている点にも要注目である。(ちなみに『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編に登場するウェルフィンの能力が「卵男(ミサイルマン)」というのだが、「卵男」「ミサイルマン」それぞれ平山夢明先生の短編のタイトルにある)。冨樫先生は本書の中で「仔猫と天然ガス」が最も好きだと書いているが、それこそこの短編集の中でも最も理不尽な恐怖に満ちている物語だ。冨樫先生の漫画が好きな人にも本書をお勧めしたい。

 

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
桜庭一樹 著
角川文庫

主人公・中学生の山田なぎさは、不思議な魅力を持つ転校生・海野藻屑と仲良くなる。しかし、藻屑は父親から虐待されており……。
この小説が衝撃的なのは、「藻屑の死」を伝える新聞記事から始まるということ。1ページ目から重要登場人物の死が明かされており、どのようにそこにいたるのかが物語の核になっているのだ。その意味では、「後味が悪い」どころか最初から重い。
漫画やアニメで「推しの死」に喪失感を感じる人は多いはず。本作でも著者のキャラクター造形の力と文章の力もあり、読み進めるうちに藻屑の魅力に惹かれていく。だから余計に、読んでいる最中もつらい。読み終えた後はやり場のない怒りや悲しみを忘れられなくなるはずだ。

 

『慟哭』
貫井徳郎 著
創元推理文庫

衝撃的な「仕掛け」のある推理小説としてあまりにも有名な本作。ネタバレになるのでこれ以上は内容について何も書けない。私自身、「記憶を消してもう一度読みたい」くらいに驚かされたのだが、決して内容を忘れられないのは、仕掛けの秀逸さだけでなく、後味の悪さにもあると思う。
本作の魅力は救いが一切ないこと。誰も幸せにならない。最後の1行を読んだときの胸を突く悲しみ。許されざる罪を犯してしまった人物に対し、思わず同情してしまうくらいに打ちのめされた。

 

『悪いうさぎ』
若竹七海 著
文春文庫

探偵の葉村晶は、家出中の女子高生ミチルを連れ戻す仕事を請け負うが、調査を進めると、他にも姿を消した少女がいて……。彼女たちはどこに消えたのか?
カバーのうさぎのイラストはとてもかわいらしいので、だまされないように。「不運すぎる女探偵」葉村晶シリーズの1作。シリーズではあるが、単体で読んでも問題ない。ストーリーとしては非常に面白いが、何より最悪な登場人物たちの最悪な遊戯に虫唾が走る。

 


執筆:Nao(THE21編集長)



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