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ボルボ・カー・ジャパン「5年で販売台数4割増を実現した『プレミアム戦略』」

2020年03月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】木村隆之(ボルボ・カー・ジャパン前社長)

【連載 経営トップに聞く】第28回 ボルボ・カー・ジャパン〔株〕前代表取締役社長 木村隆之

木村隆之

 

 スウェーデン生まれの自動車ブランド「ボルボ」のインポーターであるボルボ・カー・ジャパン〔株〕。その社長に2014年に就任し、以来、業績を大きく伸ばしてきた木村隆之氏が特に注力したのは「プレミアム戦略」だという。その具体的な内容などを聞いた。

※木村氏は今年3月2日(月)付で退任しましたが、取材は社長在任中の今年2月5日(水)に行ないました。

 

2年連続日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した影響は?

 ――まず、業績について教えてください。

木村 私が社長に就任したのが2014年7月。それから5年が経ち、2019年の販売台数は約40%増えて1万8,564台になりました。売上げの伸びはさらに大きくて、約80%増。ブランド認知度も62%高くなりました。

 ボルボの販売台数は、日本だけでなく、世界中で増えています。例えば、韓国では日本よりも伸び率が高い。とはいえ、2019年にようやく1万台を超えたところで、これまでの販売台数が少なかったから、伸び率が高いんです。韓国は日本よりも市場が小さいと思われるかもしれませんが、ドイツの有名自動車ブランドでは、販売台数も売上げも日本より韓国のほうが大きい。米国や新興国も、同じ理由で伸び率が高いですね。

 一方、市場が成熟している国では、伸び率が低くなります。例えば、本国のスウェーデンでは、この5年で6%増です。

――日本もボルボが長く販売されてきた成熟市場なので、その中で、5年で40%増というのは大きな伸びだということですね。2017年にXC60、2018年にXC40と、2年連続で日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した影響もあるでしょうか?

木村 私は社長就任以来、ずっと、ボルボをプレミアムなブランドにするべく取り組んできました。日本は成熟市場なので、お金をかけてこだわるモノとそうでないモノとに、消費が2極化しているからです。私が社長に就任する前も、ボルボは上質・安全・頑丈なブランドでしたが、「凖プレミアム」という中途半端な位置にありました。それでは生き残れません。

 プレミアムなブランドにするためには10年ほどかかるだろうと思っていましたが、日本カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続受賞したことで、かなり加速できたと思います。

 ――プレミアムなブランドにするために、日本カー・オブ・ザ・イヤーを狙った?

木村 そこまで考えていたわけではありません。広告宣伝で一貫性のあるメッセージを伝えたり、サービスを充実させたりすることで、プレミアムなブランドにしようとしてきたわけですが、こうした施策は、基本的はボルボに興味を持っていただいている方にしか伝わりません。日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したことで、それ以外の方にも、「ボルボって良くなったんだね」と思っていただくことができました。

 ――日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得できた要因は?

木村 日本カー・オブ・ザ・イヤーは、1人25点を持った60人の審査員によって選ばれます。1番に選んだクルマに10点を入れ、残りの15点は他のクルマに自由に配分できます。

 1番に選んだ審査員が最多のクルマはいつも国産なのですが、XC60やXC40は、点数を入れていただいた審査員の人数が多かったので日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得できました。審査員一人ひとりに、最新のボルボ車について、あるいはスウェーデンについて、きめ細かくアピールしてきた成果だと思います。

 以前はボルボに試乗されない審査員もいたのですが、全員にきちんと試乗していただき、安全についてのイベントに招待したり、場合によってはスウェーデンに招待したりもしています。

 ――スウェーデンについてのアピールというと?

木村 ボルボとスウェーデンの価値観は切り離せません。広告宣伝や販売店の展示車の内装などでも、スウェーデンの価値観をアピールしています。

 スウェーデンはイノベーションを数多く起こし、細かいところまで徹底する国です。例えば、第2次世界大戦の被害をあまり受けなかったため、戦後に非常に景気が良くなり、人手不足になって女性を活用するしかないということで始まった男女平等は、世界トップクラスになっています。金融危機になれば銀行を国有化するという政策も、年金改革も、スウェーデンは早くから実行しています。

 ボルボも、安全性など、決めたことは徹底してやり抜いています。

 細かいところまで徹底する、また、控えめなところがあるなど、スウェーデンの価値観には日本と似た面があるので、わかっていただけると親近感を持っていただけるようです。

 ――今挙げられた安全性は、ボルボが特に強調している点です。ただ、どの自動車メーカーも安全性をアピールしていますよね。

木村 私に言わせると比べるようなものではないですね(笑)。ボルボは、保険会社や行政と協力して、スウェーデンの本社から100km圏内で事故が起こると、事故現場に調査隊を派遣するんです。そして、どういう事故が起こって、人がどのような怪我をしたのか、クルマがどのようなダメージを受けたのかを調べ、そのデータをもとに改善を重ねています。単に法規に合わせるのとはレベルが違います。

 ――販売台数が増えた要因として、他ブランドからボルボに乗り換える人が増えたこともありますか?

木村 他ブランドからの乗り換えは、明らかに増えています。以前は購入される方の55%がもともとボルボのオーナーで、45%が新規の方だったのですが、今は比率が逆になっています。乗り換えの方は、国産車からが半分、輸入車からが半分ですね。XC40だと、40%がオーナー、30%が国産車からの乗り換え、30%が輸入車からの乗り換えです。

 2019年の外国メーカー車の輸入車新規登録台数を見ると、ボルボは前年比で6.8%伸びていますが、米国やフランス、英国などのブランドにも伸びているものがあり、ドイツブランド一辺倒だったお客様の嗜好が変わってきたことも窺えます。

 ちなみに、2019年は外国メーカー車の輸入車新規登録台数が3年ぶりに30万台を割ったのですが、私は悲観していません。一部メーカーの不健全な販売が是正された影響によるもので、輸入車の実需は落ちていないと思います。

 ――「SMAVO(スマボ)」というサブスクリプション販売もしていますが、これはボルボから他ブランドへの乗り換えを防ぐため?

木村 SMAVOは2017年に始めたのですが、サブスクリプション契約を続けていただく方はVIPオーナーだと気がついたのは、あとになってからです。2~3年後に、その時点での最新のボルボに乗り換えることを前提にしたら、サブスクリプションで購入するのが一番合理的なんですね。2~3年経つと、安全装備などがかなり変わります。

 サブスクリプションで購入されるお客様は安心・安全をより求めているのだと気がついたので、昨年、タイヤのパンクやホイルの傷の修理、交通事故傷害保険、ドライブレコーダーなどもつけた形にSMAVOをリニューアルしました。

 SMAVOを始めた理由は、今でもボルボは45%の方が現金で購入されるのですが、これは多すぎると思ったことです。本来、ファイナンシャルプランナーのような視点から、お客様にとって一番良い買い方をご提案するべきであって、それができていないから、お客様にまとまった現金を用意させることになっているのだと思います。

 サブスクリプションなら頭金がいらないだけでなく、月によって支払う金額が変動しません。特に米国人は、毎月同じ金額を固定費のように支払うことを好みます。日本でもそういう人を増やしたいと思っています。直営店では10%ほどのお客様がSMAVOで購入されるようになりました。

 

著者紹介

木村隆之(きむら・たかゆき)

ボルボ・カー・ジャパン〔株〕前代表取締役社長

1965年生まれ。87年、大阪大学工学部卒業。同年、トヨタ自動車〔株〕へ入社。海外の商品企画を担当し、トヨタに勤めた20年のうち16年間は海外営業を中心に活躍。2003年にはノースカロライナ大学でMBA(経営学修士)を取得。のちにレクサス国内営業部に移籍。07年、〔株〕ファーストリテイリングに入社。ユニクロの営業副本部長を務める。08年、日産自動車〔株〕入社。翌年、インドネシア日産で代表取締役社長を務める。その後、アジア・パシフィック日産自動車会社、タイ日産自動車会社の代表取締役社長を務め、14年にボルボ・カー・ジャパン〔株〕の代表取締役社長に就任。20年3月2日付で退任。

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