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ispace「2040年、月面に1000人が暮らす街を作る」

2020年07月07日 公開
2020年07月07日 更新

【経営トップに聞く 第33回】袴田武史(ispace CEO)

 

月の資源開発はブルーオーシャンの市場

ispace
ispaceのローバー

 

――現在、御社の売上げはどのように立てているのでしょうか?

【袴田】HAKUTOのときもパートナーシッププログラムがあったのですが、HAKUTO-Rでも継続していて、宇宙以外の事業をしている企業が初めて宇宙事業に進出する際の技術開発や事業開発を一緒に行なうプラットフォームとして利用していただいています。マーケティングにも使っていただいているので外からはスポンサーシップのように見えるかもしれませんが、我々としては協業を重視しています。そのパートナー企業からの協賛費を売上げにさせていただいています。

――日本航空〔株〕や三井住友海上火災保険〔株〕、日本特殊陶業〔株〕など7社が企業パートナーに名を連ねていますね。

【袴田】特に大企業は新たな事業の軸やイノベーションを求めていますから、そのためのフィールドとして宇宙を考えていただいているのだと思います。

我々は宇宙を人間の生活圏にしようとしているわけですが、そうなると、地球上にあるすべてのインフラもサービスも宇宙に作らなければなりません。ですから、すべての企業にこのパートナーシッププログラムに入っていただかなければならないと考えています。

――7社とも日本企業です。

【袴田】日本企業に限定しているわけではないので、今後、外国企業が加わる可能性は十分あります。

――チャールズ・スターク・ドレイパー研究所がリードするチームのメンバーとして、NASAのCLPS(Commercial Lunar Payload Service/クリプス)への入札に参加しているということですが。

【袴田】CLPSは月に物資を運ぶサービスをNASAが民間から公募するプログラムで、期間は2028年までの10年間、契約総額は最大で計26億ドルです。これを受注するための入札に参加しています。

国際宇宙ステーション(ISS)に物資を輸送するプログラムでも同様の入札があり、スペースXが受注しました。それがうまくいったので、月への輸送についても同様の入札が行なわれているのです。

――CLPSでは、月に何を運ぶのですか?

【袴田】当初は月の環境を計測するセンサーです。2024年にはアルテミス計画という月への有人飛行計画が予定されているので、今後はその準備のための物資を運ぶことになると思います。

――新型コロナウイルス流行の影響は、事業に出ていますか?(取材は6月2日に行なった)

【袴田】直接的な影響は、今のところありません。5月31日にスペースXの「クルードラゴン」がISSとのドッキングに成功したように、宇宙ビジネス全体にも影響は出ていません。通信やGPSをはじめ、地球上の生活インフラを宇宙ビジネスが支える時代になっていますから、止めるわけにはいかないのだと思います。宇宙ビジネスは、新型コロナウイルスや不況などによって多少の波はありながらも、継続的に成長していくと思います。

――月の資源を開発しようとしている企業は、御社の他にもあるのでしょうか?

【袴田】世界に10数社あると思いますが、まだブルーオーシャンです。宇宙ビジネスの中で、衛星は事業者が多いレッドオーシャンの市場ですから、これから我々が参入しようとしてもなかなか難しいですし、ロケットもエンジンの開発に10年くらいかかります。我々が新たに市場を作れる事業領域として、月の資源開発に注目しています。

――その10数社の中で、御社の強みはどこにあるのでしょう?

【袴田】1つは、ランダーもローバーも両方を手がけていて、ともに小型・軽量だということです。高頻度で月面着陸をするためには、小型化・軽量化をして、そのコストを下げることが重要です。

そして、宇宙ビジネスをしている企業には、米国だけや欧州だけを拠点にしているところが多いのですが、当社は東京と米国のカリフォルニア州、欧州のルクセンブルクに拠点を持つ、インターナショナルな組織だということも強みです。

宇宙ビジネスに入ってくるお金には各国の予算から出ている部分が多く、技術にも軍事転用を防ぐために輸出規制があるものがありますから、宇宙ビジネスはそれぞれの国の中に閉じてしまいがちなんです。それでも当社は、その枠を乗り越えて、グローバルに展開しています。

さらに、中長期的な大きなビジョンをしっかりと描き、世の中に発信していることも、他社はしていないことだと思います。HAKUTO-Rでは、2021年に最初の月面着陸をしたあと、2023年に2度目の月面着陸と月面探査を行ないます。

その後は、高頻度で月面着陸と月面探査を繰り返し、1000人が暮らし、年間1万人が訪れる街を、2040年に月面に作るという「ムーンバレー2040」を実現させます。月の水資源から水素と酸素を作り、それを燃料として、地球との間の輸送船や火星などへの探査船を飛ばすことも考えています。

――月面に街を作るための建設資材は、地球から運ぶのでしょうか?

【袴田】一部はそうなるでしょうが、目指しているのは、現地で金属などを作れるようにして、それで構造物を作ることです。生活のためのエネルギーも、水資源から作ることを考えています。

――同業他社との協業も考えている?

【袴田】もちろん。1社で事業ができればいいとは思っていません。色々な企業が事業をできるエコシステムを作ることが、我々のミッションの1つです。

 

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