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繁華街付近に密集する狭い戸建て...地形でひも解く「東京23区の格差」のワケ

2021年11月10日 公開

橋本健二(早稲田大学教授)

橋本健二

「東京はお金持ちが住んでいる」というイメージを持っている人もいるかもしれないが、実は、東京23区の中にも大きな格差がある。港区や足立区といった区単位よりも細かく、町丁目(「中央区銀座1丁目」や「港区新橋3丁目」など)ごとに所得水準などを分析しているのが、今年9月に出版された橋本健二著『東京23区×格差と階級』(中公新書ラクレ)だ。執筆の経緯などを、橋本氏に聞いた。

 

東京の特徴は「地形と格差」が結びついていること

――『東京23区×格差と階級』を拝読すると、東京という街への愛を感じました。

【橋本】大学1年生で東京に出てきて、下町から山の手まで、5カ所に住みました。今は副都心の池袋に住んでいます。それで、東京23区の全体像がわかったかなと思います。

――東京のように、狭い地域で様々な顔を持つ街は珍しい?

【橋本】そうですね。東京の大きな特徴は、街の表情に地形が結びついていることです。下町と山の手というのは、その名の通り、標高が違います。

城下町は、かつて武家屋敷だったところは高級住宅地になり、町人の街だったところは繁華街や庶民の街になるという、共通の構造を持っています。東京では、前者が山の手、後者が下町です。ただ、一般的に城下町は平らな場所につくられたので、東京のような標高の差はないのが普通です。

――橋本先生は、長く格差について研究をされていますが、東京の中の格差について研究しようと思われたのは、いつ頃ですか?

【橋本】東京に出てきたときから、関心はありました。

東京で初めて住んだのが、下町情緒のある街だと言われる深川の門前仲町だったのですが、そう言えるのは駅の周辺だけで、少し離れると工場や倉庫が立ち並び、非常に落差が大きかったんです。それで、東京はお金持ちばかりだと思っていたけれど、貧しい人も多いんだな、と感じました。それが東京の第一印象です。

大学院に進学したのは1982年で、その前後に、陣内秀信さんの『東京の空間人類学』(ちくま学芸文庫)や磯田光一さんの『思想としての東京』(講談社文芸文庫)、前田愛さんの『都市空間のなかの文学』(ちくま学芸文庫)など、東京の中の格差に関係する本が何冊か出て、注目されました。

東京には内部に大きな格差がある。その格差は、江戸時代の武家屋敷と町人町の関係がそのまま残ったもので、江戸時代から今日まで続く格差の構造がある、という内容です。川本三郎さんが一般向けにわかりやすく広めたりもしていました。

それで、私はカメラを持って街歩きをする趣味も持っているので、それも活かして東京の格差の研究をいつかはしたいと思っていましたが、忙しくてなかなか時間が取れず、研究成果として発表するようになったのは40代半ばになってからです。

初めて東京の格差について書いたのは、2006年の『階級社会』(講談社選書メチエ)という本の中の1章です。それで手応えを得て、2011年に『階級都市』(ちくま新書)を出しました。

それから本格的に研究テーマの一部に位置付けて、専門的な本や論文も発表してきましたが、今回、東京で暮らす一般の方々にも読んでいただきたいと思って書いたのが『東京23区×格差と階級』です。

――『東京23区×格差と階級』では、町丁目ごとのデータを分析しています。処理だけでも大変だったのでは?

【橋本】今はパソコンのソフトウェアが進歩しているので、それほど苦労はしませんでしたね。ひと昔前なら自分でプログラムを組まないと分析できなかったようですが、便利なものが色々とできていますから。

――町丁目ごとのデータが可視化されたことで、ご自身の街歩きの印象との違いはありましたか?

【橋本】中心部はお金持ちが多くて、周辺に行くほど所得水準が下がっていくということや、西(山の手)と東(下町)を比べると西のほうが所得水準が高いというようなマクロな構造は以前からわかっていましたが、ミクロに見ることで新たにわかったことも色々とありました。初めは、町丁目ではなく、500メートル四方のメッシュ統計を使っていたのですが、そうすると、マクロな構造から外れた場所が見つかったんです。

例えば、新宿や渋谷、池袋の繁華街から歩いて15分ほどのところに、所得水準が低い地域がいくつも見つかりました。横浜の伊勢佐木町の繁華街から歩いて5分ほどのところにも見つかりました。

「これは何だろう?」と思って、実際に行ってみると、狭い一戸建てが密集している地域があるんです。

調べてみると、理由がわかりました。例えば、今は暗渠(あんきょ)になっていますが、もとは川の流域の低湿地で、古い地図を見ると沼地や水田だったところに、貧困層が暮らすようになったりしたわけです。

そうした場所にもマンションができて、中間層が暮らすようになったりしているのですが、今でも残っている地域があるということです。

他にも、マクロな構造からすると意外だと思えるところに足を運ぶと、新しくマンションができていたり、大きな都営住宅があったりと、やはりそれぞれに理由がありました。

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段階的に家賃を設定した"都営住宅の供給"が格差縮小に有効 >

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