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決算書を読み解くプロが「非財務資料」に注目する理由

2022年03月23日 公開

近藤哲朗(「図解総研」代表理事),村上茂久(ファインディールズ代表取締役)

近藤哲朗&村上茂久

経営者や投資家、銀行員やトレーダー…、立場や職種が違えば、決算書で注目すべきファクトや数字は異なる。その理由や背景を紐解けば、その人のビジネスに対する価値観が見えてくる―。

そこで、複雑な情報を図でひもとくビジュアルシンクタンク「図解総研」代表理事である近藤哲朗氏と、理論と実務の架け橋として会計とファイナンスの情報を発信する村上茂久氏に、決算書の注目ポイントから、お互いのビジネス観を深掘りしてもらった。そこから、ビジネスパーソンが会計を学ぶべき理由が見えてきた。

 

会計の仕組みを読み解く『会計の地図』

――近藤さんは『会計の地図』(ダイヤモンド社)、村上さんは『決算書ナゾトキトレーニング』(PHPビジネス新書)を上梓されています。日頃から決算書に触れる機会も多いと思いますが、どんな時に手に取るのでしょうか? 近藤さんからお願いします。

【近藤】私は、普段ビジネスモデルの図解を通じて、講演やワークショップ、企業コンサルティングをしています。お問い合わせ頂くのが、スタートアップや中小企業より大企業が多いため、お問い合わせ頂いてから、どんな企業かを調べるためにIR情報を見るケースが多いですね。

【村上】近藤さんのnoteも拝見しましたけど、ESGの図解がGPIF※注1 の公式として使われていますよね。

【近藤】『ビジネスモデル2.0図鑑』(KADOKAWA)を読んだGPIFの広報の方から連絡を頂いたんです。GPIFの活動をわかりやすく紹介する資料を一緒につくれないかって。

GPIFは国の年金の一部を預かって活動する立場だからこそ、どういった理念で投資しているのかを、国民に理解してもらわなければなりません。ですから、GPIFの考え方を多くの人にわかりやすく伝えるのは、GPIFにとって重要な課題なんです。

【村上】GPIFといえば、ESG投資。『ビジネスモデル2.0図鑑』が出たのが2018年で、ESG投資が注目され始めたのは昨年前くらいですから、近藤さんはトレンドを捉えるのが速い印象です。

【近藤】ありがとうございます。『決算書ナゾトキトレーニング』でも、6章でエーザイのESG経営を取り上げていますよね。この内容、本当にわかりやすかったです!

【村上】ありがとうございます。近藤さんも『会計の地図』で、エーザイについて解説されていましたね。

【近藤】いや、私はさわりくらいの説明なので。私の説明を補完する形でしっかり解説されていて、ありがたいと同時に、とても勉強になりました。

【村上】こちらこそ、『会計の地図』は勉強になりました。キャッシュフロー決算書をビジネスモデル視点で説明できたのは、目から鱗でしたね。私は金融畑出身なので、近藤さんのような視点は得られませんでした。

【近藤】もともと、世の中や物事の裏側、仕組み、構造を読み解くのが好きなんです。その一環で、ビジネスモデルを図式化したり。同じように、会計の仕組みも図式化できないかと考えました。

そもそも、経営大学院の授業で会計を習っていた時、会計に苦手意識があったんです。授業で紹介されるケーススタディは面白いんですけど、概念が整理されていないし、難しい単語が多いし、とにかくとっつきにくい印象でした。

そこで、会計のケーススタディを抽象化して構造を読み解くことから始めました。私は決算書から企業戦略を読み解くよりも、企業情報から、会計の成り立ちを考えることに関心が強いんです。会計の構造への理解が深まるたびに、「会計の仕組みって、よくできている…」と感動しましたね。

【村上】なるほど、決算書から企業戦略を読み解く私とは、逆のパターンですね。

 

会計とは、「私と社会」をつなぐツール

【村上】私が『会計の地図』を読んで、特に「ここが、すごい!」と思ったのは、初学者向けの会計本にもかかわらず、最後の方にファイナンスの視点を入れていたことです。

初学者向けの会計の本というと、架空の企業をモデルにした財務三表の読み方解説で終わってしまう印象です。しかし、『会計の地図』では、時価総額と純資産との関係性をきっちり説明していたりして、社会全体の中で会計がどう使われるか、血の通った内容になっていると感じました。

【近藤】そうですね。『会計の地図』というタイトルですが、私が伝えたかったのは会計というより、社会全体として、共通価値を生んでいかなければならないというメッセージです。

これまでの資本主義からステークホルダー資本主義※2へと流れがシフトしていく中で、短期的な利益を求める資本主義から、持続的に発展する社会への変化を伝えたいと思いました。

ただ、村上さんのご指摘の通り、これまでの会計の本は、会計の説明に終始するあまり、社会との接点まで含めて説明する本は少なかった印象です。

どうしたものかと考えあぐねていた時に、『バリュエーションの教科書』(東洋経済新報社)という本に出会いました。個人と社会の経済活動の接続が、PBRや自己創設のれんといったファイナンスの話を通じて実感できる内容なんです。

【村上】名著ですね。けっして簡単な本ではありませんが。

【近藤】この本にインスパイアされまして。ESG投資のような変化が求められる中で、こうしたファイナンスの話もすれば、うまくつながるのではないかと思いました。

だから、実は『会計の地図』は逆算なんです。ファイナンスを理解するためには、財務三表の知識もないといけませんから。

【村上】『会計の地図』は、「私が社会とどうつながるか」というメッセージに重心を置いていますね。だからこそ、会計が無機質なデータではなく、社会に有機的につながるツールとして理解できます。そのためには、ファイナンスの知識が欠かせないですよね。

――漠然と会計やファイナンスを学ばなければならないと感じているビジネスパーソンは多いと思いますが、「自分と社会を結ぶ」という動機は、会計を学ぶきっかけになるかもしれませんね。昨今、自分の仕事が社会に役立っている実感が持てない、フィンテックが進化してお金の手触り感を感じられない人が増えている印象です。

【近藤】そうですね。それと、個人と社会とのつながりがわからなくなるので、私はなるべくジャンル分けしたくありませんでした。会計は複雑なので、財務会計やら管理会計やら、学問の領域を分けていますが、会計全体を俯瞰できる「見取り図」のようなコンテンツを提供したいと思いました。

全体像を理解してもらって、「より詳しく知るためには、他をどうぞ」という感じですね。会計の名著はたくさんあります。

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