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胃がんの早期発見をAIが助ける? 世界初の「内視鏡技術」の可能性

2022年09月08日 公開
2023年02月21日 更新

多田智裕(株式会社AIメディカルサービス代表取締役CEO)

 

創業5年で累計145億円の資金を調達

研究開始当初は私の自己資金で研究費を捻出していましたが、AI医療機器の分野で継続的に研究・開発活動を続けていくためには、会社を設立するだけでは不十分。莫大な開発資金を確保する必要がありました。

そこで資金調達の道を探るために、国内の有力投資家が全て集う、Incubate Campというピッチコンテスト(起業家が投資家などに対して事業計画をプレゼンするコンテスト)に出場。最終審査進出者の中では唯一の起業前企業でしたが総合3位にランクインできました。

これにより私は研究開発に必要な資金調達が可能であると判断し、2017年9月に株式会社AIメディカルサービスを設立し、CEOに就任しました。会社の理念は「世界の患者を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ~」です。

会社設立後は、実臨床現場で使用可能なレベルにまで内視鏡AIの精度を高める研究開発を進めて参りました。

高品質な内視鏡画像を動画で収集する専用録画機や、ハイビジョン動画からデータを抽出してアノテーション(AIが解析できるように情報を付加する作業)を行うソフトウエアなどの、開発周りに必要なツールも自社で全て開発したのです。

2019年10月には、ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズ、WiL,LLC.などを引受先とする第三者割当増資で46億円の資金を調達、2022年5月には、SoftBank Vision Fund 2をリード投資家とするシリーズCラウンドで80億円を調達し、累計調達額は約145億円(補助金等を含む)となりました。

調達した資金は、内視鏡AIの国内における事業化のみならず、世界の内視鏡医療現場に向けて、内視鏡AIをいち早くお届けするために活用したいと考えております。

 

政府にAI医療機器の審査体制増強を望む

開発したAI医療機器を国内で製造販売するためには、厚生労働省の承認を得る必要があります。AI医療機器は「プログラム医療機器」と呼ばれる医療機器の新しい分野に属します。新しい分野なので、社会実装のためには関係する、各方面の方の理解と協力を進めていくことが必須です。

そこで、疾患の予測や病変の早期発見・早期介入による健康寿命の延伸、それに伴う医療費適正化、さらには業務効率化による医師の働き方改革への貢献を目指して、AI医療機器を開発する2社とともに、2019年5月「AIを活用した医療機器の開発と発展を目指す協議会(AI医療機器協議会)」を設立しました。

厚生労働省は「プログラム等の最先端医療機器の審査抜本改革(DASH for SaMD)」を推進しており、PMDAには2021年4月よりプログラム医療機器審査室が立ち上がるなど、国を挙げてプログラム医療機器の普及に取り組んで頂いております。

しかし、プログラム医療機器は審査実績の蓄積が浅く、さらに、新しい分野であるために、審査のハードルが高く、かつ、審査要員に比して相談・審査の案件数が多く、承認までに時間を要しているのも事実です。

2021年6月に政府が決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針)で、プログラム医療機器の評価に関する記載が組み込まれ、2022年4月からは健康保険でプログラム医療機器等医学管理加算が新設されるなど各分野が連携してAI医療機器のイノベーションを社会実装する動きは出てきています。

しかし、スタートラインであるプログラム医療機器承認審査業務が滞っていては、製品は完成後1年以上経過しても世の中に出ることすらできません。AI医療機器の審査体制増強など承認審査部門の支援強化が社会実装に向けて1番の急務であると私は考えています。

これらの話題を議論するべくAI医療機器協議会は、2022年2月に行われた、産官学が連携したフォーラムである「SaMDフォーラム2022」の開催をサポートするとともに、今後も定期的に開催していきたいと考えています。

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