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イノベーションに共通するのは志? 再び「日本型経営」に注目すべき理由

2022年09月12日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

日本型経営

今、世界的に注目を集めている「パーパス経営」。企業の存在意義を示すパーパスを中心に据えた経営を指すが、一橋大学の名和高司教授はそれを「志本経営」と呼び、それを基軸とすることで、日本が再び発展することができると指摘する。「志本経営」とは何か。そして、そこでミドルリーダーが果たす役割とは?

※本稿は、『THE21』2022年9月号に掲載された「志本主義時代のリーダー論」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

日本の閉塞感を打破する道とは?

コロナ禍にウクライナ戦争、そして物価高。多くの人が「閉塞感」や「行き詰まり」を感じているのではないかと思う。『THE21』の読者は30~50代のビジネスパーソンが多いと聞いているが、その方々がビジネスライフを過ごしてきたのはまさに「失われた30年」。

経済成長が滞り、日本の国際的な地位が低下する中、この世代はひょっとすると10年、20年にわたって閉塞感を抱いてきたのかもしれない。

本記事の目的は、そんな方々に再び元気になってもらうことだ。日本は閉塞感を打破し、再び成長することができるし、そのための道も存在している。それをぜひ知っていただきたい。最初に紹介したい言葉がある。

それが「パーパス」だ。「目的」「存在意義」などと訳されることが多いが、私は「志」という言葉を当てている。他者のために価値あることをしたいという信念こそがパーパスであり、このパーパスを原点に据えた「パーパス経営」が、今、世界的に注目されている。

パーパスと混同されがちなのが、「ミッション」だ。「ミッションなら、すでに自社にもある」という人も多いだろう。だが、ミッションとパーパスとは似て非なるものだ。

ミッションとはいわば「大義」であり、「○○をしなくてはならない」というものだ。一方、パーパスとは「自分たちのやりたいことは何か」「自分たちのありたい姿とはどういうものか」から始まる。

ミッションが外から与えられるものだとしたら、パーパスとは自分たちの中から湧き出てくるもの。上司から与えられた無茶な目標が「ミッション」で、自分から「これを達成したい」と設定したものが「パーパス」だと考えてもらえば、理解しやすいかもしれない。

 

資本主義はすでに限界を迎えつつある

なぜ今、世界がパーパス経営に注目しているのかと言えば、行きすぎた資本主義(キャピタリズム)の見直しがその大きな理由だ。

この数十年間、利益だけを追求する資本主義が世界を覆ってきた。その結果、世界は無理な成長を続け、地球環境悪化に代表される様々なひずみが生じている。

このままでは世界は、地球は滅びてしまう。そのような危機感から、世界は資本主義、すなわち「お金を中心にすべてを考える」ことからの脱却が不可避と考えるようになっている。

資本主義を構成する要素は「ヒト・モノ・カネ」だ。モノについては多くの分野でコモディティ化が進んでいる。カネについても、世界中でカネ余りが起きている。

となると、残るは「ヒト」しかない。だからこそ人を中心に据えたパーパス経営が注目されているということだろう。

ここまで読まれた読者の方は、「人を中心にする経営とは、日本が昔からやってきたことに他ならないのでは?」と思われたかもしれない。その通りである。

30数年前、経営学者の伊丹敬之氏が「人本主義」を唱えた。日本企業の成長の原動力は人を基軸とした日本型システムにあるとしたもので、まさにパーパス経営の原点とも言える。

しかし、不幸なことにその直後にバブルが崩壊し、日本経済は急激に悪化。人本主義は昭和の古い考え方と同一視され、日本は資本主義の道をひた走ることになる。

皮肉なことに、その間世界ではむしろ資本主義の行き詰まりからパーパス経営、つまり人本主義的な経営が見直されるようになったのだ。

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