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日本経済はどう変わっていく? 2030年までに知りたいビジネス新常識

2022年10月11日 公開
2023年02月02日 更新

嶋田毅(グロービス経営大学院教授/グロービス出版局長)

グロービズ メガトレンド

近年では、テクノロジーが飛躍的進化を遂げ、人々の働き方や組織の在り方、そして、マーケティングをはじめとする経営の在り方が大きく変わってきています。こうした変化を察知する感度を磨くには、世の中の構造や背景に対する理解が欠かせません。

ビジネススクール「グロービス」が、2030年に向けて起こる「メガトレンド」や、ビジネス潮流を読み解くために必要な思考法について解説した一節を紹介します。

※本稿は、グロービズ著『MBA 2030年の基礎知識100』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。

 

ますます加速する「VUCA」

この10年ほど、VUCA(ブーカ)の時代ということが言われてきました。VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、一言で言えば、想定外のことが次々と起こりうる時代、今までの常識が非常識になる時代ということです。

2030年には、この傾向がより強くなることは、確実と言えそうです。

こうした時代においては、過去のケースを過度に参考にしすぎることは危険です。それらをある程度参考にしつつ、自分の頭で、都度、しっかりと物事を考えることが非常に大切になります。

経営に関して言えば、未来を決め打ちして、それに賭ける方法は、リスクが高くなります。いくつかの「起こりうる未来」を前もって構想し、それに備える姿勢が、より重要になるでしょう。この考え方を「シナリオ・プランニング」と言います。

シナリオ・プランニングでは、不確実かつ自社にとって大きな影響を与える外部環境を2つ、あるいは3つ程度選び、それぞれの組み合わせが起こった未来がどんな姿になるかを予め想定します。

そして、それぞれの未来に応じた戦略を立てるのです。予め、その未来が起こるストーリーについて社内で議論がなされていると、その時になって慌てて物事を考えるよりも、より的確な意思決定ができますし、従業員の意識変容も相対的に容易になります。

未来をただ待つだけではなく、いくつかのパターンを予測し、事前の準備を怠らないことが、2030年にはより大事になるのです。

 

社会の歪みをどのように是正するか

「新しい資本主義」は岸田文雄政権が打ち出したスローガンでもありますが、ここではより一般的な新しい資本主義について触れます。2022年現在、これまでの資本主義への典型的な批判として、以下のようなものがあります。

・行き過ぎた市場主義、株主重視主義、金融中心主義により、企業は利益重視に走り、貧富の差が拡大した。日本においては、正社員と非正規社員で待遇が違いすぎることも問題となっている。

・貧富の差が教育機会などを通じて拡大再生産されるようになった。先進国においても貧困層が増えるようになった。

・お金やモノにばかり目が行く人々が増えた。

・金融工学の発達などにより、金融市場は実体経済を反映しないマネーゲームの場となった。

・SDGsが謳われる一方で、相変わらず環境破壊などが進んでいる。

これらにメスを入れ、「より人に優しい資本主義」の形を模索することが議論されています。それこそが、新しい資本主義です。それがどのようなものになるのかはまだ意見が分かれますが、そのエッセンスは概ね以下のようなものです。

◎株主重視は意識しつつも、株主偏重にならないようにする
すべてのステークホルダーがWin-Winとなることが期待されます。機関投資家や個人投資家は、単に儲けている企業、成長しそうな企業だけに目を奪われるのではなく、世の中に貢献している企業にも注目することが望まれます。

◎お金やモノ以上に「心」を大切にする
幸福感は最終的には心理的な部分で決まります。もちろん、最低限のお金やモノは必要ですが、別の部分で幸福を感じられる社会にする必要があります。貧困層に対する支援もより手厚いものが必要となります。完全なベーシックインカム制度は実現しないでしょうが、最低限の心の豊かさを持てる再分配は必要となるでしょう。

◎機会の付与
貧困層にはスタートラインにすら立てない若者もいます。彼らの能力を活用できないのは国家的な損失でもあります。特に優秀な人材については、教育の機会や就業の機会をしっかりと与える必要があります。

◎ボランティア経済の拡大
経済は金銭的な取引だけで回っているわけではありません。ボランティアや寄付などによって成り立つ人間の営みも多々あります。ITの進化には、これを助ける側面もあります。助けを必要としている人と、助けたい人を効率的にマッチングできるからです。これらをうまくつなぐビジネスなども期待されます。

◎金銭から無形の資産の時代へ
これまでの資本主義では金銭が主役でした。しかし、新しい資本主義では、信頼、評判、文化、知識といった無形の資産がより価値を持つ可能性が高まります。もちろん企業は利益を追求するわけですが、一方でこうした無形の資産を蓄積するとともに、それを社会課題の解決に振り向ける必要があります。

◎企業の生産性を高める
企業はいたずらに利益を追い内部留保を蓄積するだけではなく、利益を社会に還元する姿勢がますます必要となるでしょう。だからこそ、マネジメントの力を高め、効率的にビジネスを回す必要性が高まるのです。日本企業は先進国の中でも生産性が低いことが問題視されてきました。ITなどを徹底的に活用することで、高い価値を生み出し、顧客を満足させながら、多くの社会貢献をすることが期待されます。

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