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人生100年時代に健康はゴールではない...企業が着目すべき「ウェルビーイング」

2022年10月24日 公開
2023年02月20日 更新

藤田康人(株式会社インテグレート 代表取締役CEO)

 

ウェルビーイングをビジネスに活かす視点のずらし方

ウェルビーイングは人々の「生き方」や「価値観」が変わる世界的なムーブメント。せっかくなら、新商品開発やマーケティングに活かしたいですよね。

とはいえ、具体的にどうすればいいのか、まだ多くの企業が手探りです。

単に健康になるための商品では、ウェルビーイングとは言えません。ウェルビーイングの視点でとらえると、体や心が健康になることは、ウェルビーイングを実現するための大事な要素のひとつに過ぎないからです。

少し視点をずらす必要があります。

つまり「健康になるためではなく、健康を維持するための商品やサービス」を考えるということになります。なぜかと言えば、健康がそこなわれた後では、自分の時間を自分らしく使うことが難しくなります。痛みや不快感はもちろん、通院の手間や費用も、自分らしく生きることを阻害します。

必要なのは、「痛い」を取り除くのではなく、「痛い」が出ないようにするのがウェルビーイング的アプローチです。対症療法ではなく、予防でもなく、未病ケアです。

それではウェルビーイングの視点から商品開発をするとどうなるか。例えば、サプリメントを開発したいとしましょう。

これまでは、症状を改善する、要するに対症療法的なものを考えていました。ひざが痛い人にはひざの痛みを改善するサプリメントを、血圧やコレステロールが高い人にはそれを下げるサプリメントを考えるといった具合です。

それを、ホメオスタシスを維持する方向で考えるのです。症状が出る前に使うサプリメントとなると、ターゲットも変わってきます。

例えば、ひざ痛のサプリメントは、65歳以上の今すでにひざが痛い人向けの商品です。しかし、未病ケアをコンセプトにすると症状が出る前の、40~50歳くらいで、まだひざが痛くない人にまでターゲットを広げることができます。

痛みをやわらげる商品と痛みが生まれないように備えるための商品の市場規模を考えてみてください。

前者が10万人規模のビジネスだとしたら、おそらく後者はその何倍もの規模のビジネスになるでしょう。そこには新しい市場が生まれることになります。

 

健康を売るビジネスから「幸せ」を売るビジネスに

訴求の仕方も変わるでしょう。症状が出てから使うサプリメントは、痛みの改善にどれくらい効果があるのか、どうしてこの成分なのかなど、痛みと直結する内容がメインになると思います。

そして薬ではないサプリメントでこの効果を直接訴求することは規制のもと、限定的にしか許されません。

未病ケアの商品は、ひざが痛くなったことで失われるウェルビーイングな、時間、体験。例えば「楽しみにしていた旅行に行けなくなる」「大好きな趣味のゴルフが続けられなくなる」「毎日の犬の散歩が辛くなる」など、楽しみが失われるシーンをイメージさせることがポイントになります。

ひざが痛いこと自体も問題なのですが、購入者にとって本当に切実なのは、ひざの痛みそのものよりも、ひざ痛で失う家族との触れ合いの時間、すなわち「ウェルビーイングな暮らし」です。

訴求ポイントをずらすことで商品の価値が変わります。商品の効能自体が変わるわけではありませんが、ウェルビーイングの考え方を取り入れることで、生活者のインサイトに刺さる商品に生まれ変わるのです。

痛みに効くという、シンプルな話のほうがわかりやすいのは事実です。しかし、薬ではないサプリメントや飲料、食品などの商品だけで効果を体感させるのは限界があります。

一時期大流行したトクホ(特定保健用食品)のメタボ飲料が今苦戦しているのも、飲料を飲んだだけではそう簡単に痩せはしないということを多くの生活者が体験したからだと思います。

そこであえてウェルビーイングについて訴求するのです。これからの時代は、痛みによって失うかもしれない幸せにスポットを当てることが重要になってきます。

これまでは個別解決型の商品や病気予防の商品が売れていましたが、これからはウェルビーイング型の商品にシフトすることは間違いないでしょう。

もしかすると、既存の商品やサービスも、アプローチを変えるだけで新たなお客さまを開拓できるかもしれません。こうしたアプローチを私は「関係性のリデザイン」と呼んでいます。

2022年9月に発売した拙著『ウェルビーイングビジネスの教科書』(アスコム)に、「関係性のリデザイン」の具体的な実践方法について掲載しています。

世の中の人たちは幸せになりたいのですから、みなさんのビジネスも健康を売るビジネスから、幸せを売るビジネスにリデザインしてみてはいかがでしょうか。

 

【藤田康人(ふじた・やすと)】株式会社インテグレート 代表取締役CEO。1964年東京都生まれ。慶應義塾大学を卒業後、味の素株式会社に入社。1997年にキシリトールを日本に初めて導入し、素材メーカーの立場からキシリトール・ブームを仕掛けた。この結果、ガムを中心とするキシリトール製品市場はゼロから2000億円規模へと成長。2007年5月、広く日本企業のヘルスケア~ウェルビーイングマーケティングに寄与するべくマーケティングエージェンシー「株式会社インテグレート」を設立、代表取締役CEOに就任。

現在、様々な媒体でウェルビーイングビジネスをテーマにした記事を連載し、ウェルビーイング エキスポ&カンファレンスや日本マーケティング協会などでウェルビーイングビジネスについての講演を多数行っている。著書に「ウェルビーイングビジネスの教科書」(アスコム刊)がある。

 

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