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松田智生 アクティブシニアで地方創生

2017年05月19日 公開

松田智生(三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター主席研究員) 

雇用を創出し、多世代に貢献する「日本版CCRC」とは

聞き手:編集部(大隅 元)

 大都市に住む高齢者が住み替え、地域貢献や生涯学習をしながら健康時から介護時まで安心して暮らせる住宅コミュニティー「日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)」が注目されている。元気なうちに多世代が集うコミュニティーに参加して充実した人生を送り、健康寿命を可能なかぎり伸ばすとともに、要介護状態になっても継続的な医療・介護サービスが受けられる点も特徴の1つである。
 CCRC発祥の地であるアメリカでは約2000カ所のコミュニティーがあり、計70万人ほどが居住している。市場規模はじつに約3兆円。CCRCで見られるのは、担い手となり生きがいをもって暮らす元気な高齢者(アクティブシニア)の姿である。
 現在、わが国でも「日本版CCRC」を根付かせるべく、国や地方で議論が進められている。政府は一昨年、「日本版CCRC構想有識者会議」(座長・増田寛也元総務相)を設置。全国で約230の地方自治体が、推進意向を示している。同会議委員の主要メンバーである松田智生氏に、「日本版CCRC」構想の展望と課題を聞いた。

 

「人生二期作」と「人生二毛作」

 ――「日本版CCRC」は、アクティブシニアの住み替えだけでなく、地域住民と交流しながら健康的で自立した生活を送り、医療や介護の安心が備わった地域づくりをめざすといわれています。そもそもアクティブシニアとは、どういう人のことを指すのでしょうか。

 松田 アクティブシニアとは「WILL(やりたいこと)」と「CAN(できること)」が明らかになっている人たちといえるでしょう。

 たとえば仕事一筋の人が、リタイアした途端に無気力状態になってしまうことは多々あります。また、組織で細分化された一部の専門性しかないにもかかわらず、仕事全般をマスターしていると勘違いしている人もいる。つまり「自分は何がしたくて、何ができるのか」をわかっていないシニアは意外に多いのです。大企業の役員や部長だった人でも、いざリタイアしたら自分のWILLやCANが何一つ発見できないという事態になってしまう。

 そうならないように、「やりたいこと」「できること」を明確に描けるのがアクティブシニアになるということです。

 アクティブシニアのもう1つのキーワードは、「きょうよう」「きょういく」です。つまり「今日用=今日用事がある」と「今日行く=今日行く場所がある」ことです。たとえば早起きして農園に通い、日中は大学で栄養学を学び、地元の特産品の販路拡大を話し合う。夜はホスト・ファミリーの留学生と食事をし、ジャズバーで音楽仲間と談笑。こんな1日も夢ではありません。

 ――羨ましいほど充実した生活ですが、実際こうした暮らしを行なうアクティブシニアは存在するのでしょうか。

 松田 たとえば大手出版社に勤めていた方で、リタイア後、高知市に移住した例があります。漫画『釣りバカ日誌』(小学館)の初代編集担当で、主人公「ハマちゃん」のモデルで大の釣り好き。高知で釣り三昧の日々を楽しみながら、編集者だった経験を活かして農業や観光や移住のアドバイザーとして活躍中です。現役時代の強みを存分に発揮した「人生二期作」ですね。さらに、最近は高知大学の特任教授となり、新たなキャリアの「人生二毛作」も始めています。

 リタイアしたシニアにとって寂しいのが、交わす名刺が無くなることだそうです。その意味では、大学の特任教授の名刺があるのは嬉しいことだと思います。

 

「いまが人生でいちばん幸せ」

 ――首都圏勤務だった人が、急に地方に移住するのはハードルが高いようにも思えますが。

 松田 この高知移住の方がいうには、「田舎暮らし」はすぐに飽きてしまうそうです。地方の中心市街地なら、病院や学校、お洒落なバーやイタリアンだけでなく、赤ちょうちんやスナックも充実しています(笑)。

 もう1人の例は、早期退職制度でリタイアして佐世保市(長崎県)に移住した大手ビール会社の役員。この方は長崎支社長を4年半務め、「第2の故郷でもある長崎に恩返しをしたい」と移住を決めました。学生時代に六大学野球で活躍していた腕前を活かし、大学野球部のコーチを務めています。彼のケースも「人生二毛作」モデルですね。

 企業戦士時代は、大企業の「鎧」を身に着けているような厳しいイメージでしたが、現在は真っ黒に日焼けした顔でマイルドな印象で、「いまが人生でいちばん幸せ」だそうです。

 この方は移住した際、地元の人から「お帰りなさい」といわれたのが何より嬉しかったそうです。たしかに知らない土地より、知人がいて思い入れのある場所のほうがよいでしょう。彼のような「転勤族の恩返し型」も、CCRCの理想的なかたちといえます。

 ――説明を聞いているだけで、元気で明るい高齢者の姿をイメージできます。彼らは普段、何をモチベーションの源泉としているのでしょうか。

 松田 アクティブシニアは、貢献欲求と承認欲求が満たされています。誰かに貢献している、誰かに承認されているという実感は、生きるための原動力になります。

 さらに、自分と違う世代を含めた他者との「深い話し合い」も、モチベーションの大きな要素なのです。地域の未来について住民と真剣に議論するような「青臭い議論」が、心の健康に繋がっていくのでしょう。

 ――アクティブシニアは現在、高齢者のおよそ何割が該当しますか。

 松田 個人的な感覚ですが、「2:6:2の法則」でいう上位2割の方が「アクティブ層」で、一方、下位2割は、病気や介護の「対処層」。中間の6割を占めるシニアは、何かを始めたいと思っているけれど、一歩を踏み出せない「潜在アクティブ層」です。

『Voice』の読者にも、老後の生き方や趣味の本を読んではみたものの「実際、どう始めたらいいかわからない」という方がいるかもしれない。その一歩を踏み出すための仕組みが、CCRCの暮らしにありそうです。

 日本版CCRCは、この6割の中間層を将来、対処層に向かわせず、アクティブ層に移行させる「対処から予防」の一助になると考えています。

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著者紹介

松田智生(まつだ・ともお)

三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター主席研究員

1966年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。2010年より、CCRCの有望性を提唱し、産官学のアドバイザーを数多く務める。15年より高知大学客員教授を兼務。共著に「フロネシス10 シニアが輝く日本の未来」(丸善プラネット)「3万人調査で読み解く日本の生活者市場」(日本経済新聞出版社)など。新著は『日本版CCRCがわかる本』(法研)。

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