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【あの著者と、この店で】上海でバイトしてみてわかった!ヤバすぎる日中「労働格差」(後編)

2018年06月01日 公開

西谷格(フリーライター)

 

聞き手:大隅 元(PHPビジネス出版課)

人は美味しいものを食べると、頬が緩む。少しお酒を口にすれば、饒舌になる人もいれば、少し大胆になる人もいる。もしかしたら、食事を機に、あの著者のとっておきの話も聞き出せるのではないか――。本連載は、個人的に気になる飲食店をお借りし、その店の名物とともに、いま注目の著者から書籍では描ききれなかったこぼれ話を堪能するという、ちょっとぜいたくなインタビュー企画である


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言われっぱなしは損をする

――前回に続いて、中国の現状についてお聞きします。その前に、そもそもどうして、西谷さんは上海に移住しようと思ったのですか。

西谷 もともと、地方の新聞社で2年間勤めた後、東京に戻りフリーライターとして活動していたものの、さっぱり芽が出なかったんです。そんなとき、転職サイトを眺めていたら、「フリーペーパーの編集者募集」という案内が目に留まった。でもよく見ると、「上海在住が条件」と書いてある。土地勘もないし不安でしたが、当時、2010年の上海万博を前に沸き立っていたころで、まあいいかな、と(笑)。履歴書を送ったところ、都内で簡単な面接を行なうだけで、即採用。とんとん拍子に事が運び、いま振り返ると、奇妙な展開でした……。

――上海でいくつも職場を体験してきたわけですが、中国語は堪能だったのですか?

西谷 中国語がペラペラだったら、いまの仕事選んでいませんよ(笑)。正直、大学の講義で基本の基本を学んだ程度です。それから上海に行くまで、中国語は勉強していません。もちろん、移住してからは、参考書で一から文法や単語を学び直しながら、日常会話で実践を繰り返しました。フリーペーパーの仕事で、取材を通して、大量の中国語を浴びたのも大きかったと思います。

 その後、中国情報を扱うウェブサイトの仕事に携わる機会を得て、中国人のブログを翻訳する仕事を始めました。これがフリーペーパーで働くより稼げたんです。言語の壁があっても何とかなることがわかり、思い切って中国社会に飛び込んでよかったと思いました。

Tシャツに惹かれて西谷氏に声を掛けてきたのは、写真評論家・飯沢耕太郎さんの奥様。青山は狭い

 

――なるほど。意外にも最初から中国への関心は高かったわけではなかったのですね。

西谷 ええ。中国人に対しても特別な感情は抱いていませんでした。学生のとき北京を訪れた際、ちょうど「反日」デモが起きて、路上の掲示板のガラスを割ったり、日本を罵倒する若者を見ても、「どうして中国人は、こんなに日本を嫌うのだろう」という程度の感想しか抱かなかったほどです。ところが、上海に移住してしばらくすると、「もう嫌だ、早く帰りたい」と思うようになりました。

――フラットな感情がどうして急変したのでしょう?

西谷 中国人とのコミュニケーションの面で苦労したからです。中国人のなかには自らの主張、要望を押し通してくる人が少なくありません。正直、普通に会話をしているだけでもストレスでした。急に、想像も及ばないような自己正当性を振りかざすので、まともに相手にしていたら精神がもちません。

――そこで、西谷さんはどう対応されたのですか。

西谷 中国人と話すときは、“自己主張スイッチ”をオンにしていました。言われっぱなしは、絶対に損をします。だから相手から理不尽なことを要求されたら、とにかく「不行(ダメです)」と言って、はっきりと自己主張しました。中国人相手に「思いは伝わる」は通用しない、ということを日本人は肝に銘じるべきです。

 ただし、日本に住む中国人は少し異なります。彼らは比較的裕福で、日本の文化やしきたりも理解していて、だいぶ「日本人化」している。たとえるなら、辛くないカレー(笑)。“激辛”の中国人と同じ接し方をする必要はないでしょう。

――ほかに、日本とは異なる習慣を目の当たりにしたことはありますか?

西谷 驚いたのは、同居人が家の中に鶏をいきたまま持ち込んできて、風呂場でさばきだしたこと。まさにホラー映画のワンシーンでした。慌てて制止しようにも、「没問題(大丈夫)」といって作業を続ける。あとから話を聞くと、中国では、日本人が鮮魚をさばく感覚で鶏を家で調理する習慣があるようです。これにはカルチャーショックを受けました。笑い話ですが、その鶏を煮込んだスープが、これまで食べたことのない味わいで、とっても美味しかったです(笑)。

鳥スープの味はよくわからないが、「レバーと白髪ネギのXO醤炒め」はとってもおいしい

 

――そういえば、西谷さんが上海に住んでいたころの2012年には、尖閣諸島国有化をめぐって、中国で反日デモが行なわれていましたね。

西谷 それまでは、どの中国人もフレンドリーに接してくれて、仕事を探す際も、「日本人だから採用しない」というあからさまな差別を受けることはありませんでした。ところが、2012年は明らかに異様な雰囲気が街中に漂っていた気がします。

 たとえば、行きつけの靴のリペアショップがあり、そこの店主とは顔なじみでよく世間話をしていたのですが、ある日、「おまえの靴は直せない」と言うなり、サービスを拒絶したのです。理由を尋ねると、「釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)だよ」という。そのときは、純粋に傷ついたし、国家間の摩擦や緊張の影響を受けやすい国民なんだということを痛感しました。

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著者紹介

西谷格(にしたにただず)

フリーライター

1981年、神奈川県生まれ。フリーライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした

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