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オウム真理教のカルトブームはハリー・ポッターに受け継がれた? 養老孟司が平成を振り返る

2018年06月21日 公開

養老孟司(解剖学者)

 

仮構の世界に浸る宗教の機能

平成7年は、個人的には節目の年だった。私の平成はここから始まる。そんな感じがしている。3月末日に学生時代からそのまま続けて勤務した東京大学を辞めたからである。

勤務先も役職も、何もない。フリーターとして世間に初めて出たというべきか。しかもその10日前、母が95歳で死んだ。父は戦争中に死んでいるので、57歳で両親を失ったことになる。

さらにこの年、社会的には地下鉄サリン事件があった。世相の変化、若い世代の将来を暗示する、奇怪な事件だった。経済では定期預金の金利が 0.5%くらいに落ちた。

いま思えば、バブル崩壊がはっきりした時期である。預金の金利は、その後はほぼゼロで推移している。「失われた20年」という表現があるが、経済的にはまさにそうである。ただしその前提には、経済は成長を続けなければならない、という信念がある。

ともあれ、社会的にも、この年あたりが節目だと見てもいいであろう。ただいま現在の社会状況が始まった時期だからである。

思えば、オウム真理教事件はじつに不可解な事件だった。当時、何度か論評したことがある。しかしいまだに多くの疑問が残っている。

背景にはまず、それ以前から続いたオカルト・ブームがある。ユリ・ゲラーのスプーン曲げは記憶している人が多いであろう。これは昭和49年、1974年のことである。その後、臨死体験が別なブームを起こした。当時私は現役で、週刊誌から何度か電話取材を受けたことを記憶している。そうした傾向の行き着いたところが、オウム事件だったのであろう。

こうしたカルトの流行を、私はくだらないと思っているのではない。むしろ人はそういう現象に魅かれる。たとえばキリスト教の基本の1つは、奇跡の存在である。

ただそうしたことがわれわれに教えてくれるのは、われわれの意識の頼りなさである。日常的に意識を信頼するのは、とくに現代社会がそれが可能になるように、まさに意識的に設計されているからである。その中にスッポリ浸かってしまうと、逆にどこかでそんなはずはないと思い始める人が生じる。

それがカルトに魅かれる背景であろう。それはヒトの性質あるいは癖だというしかない。でも臨死体験を神秘体験だとする考えに私が反対するのは、普通はそうした主張も再び意識の産物だからである。

臨死体験を理性的つまり意識的に説明するなら、脳科学のいうことのほうが当然ながら筋が通っている。そもそも理性的に神秘体験を説明することはできないはずである。なぜなら神秘体験だからである。説明できるなら神秘ではない。

別な言い方をすれば、真の神秘体験は理性的に説明可能な現象とはレベルが違う出来事である。アルファベットを考えたらわかるであろう。D、O、Gを並べて書けば、英語ではイヌである。しかしアルファベットのどこにも、イヌは含まれていない。文字を並べた途端、イヌが生じてしまう。

それは頭の中の話だろ、と思う人もあろう。でもあなたの考えることは、すべて頭の中の話である。そこにレベルの違いがあることを、私は指摘しただけである。それを無視すると、ムダな議論をすることになる。

オウム真理教を頂点とするカルト・ブームは去った。しかし人の本性は変わらない。それが世界的なハリー・ポッター・ブームに引き継がれたのだと私は思う。全世界で5億冊売れたと聞いた。

理性的な意識を中心とする現代社会の文学は、ファンタジーを希求する部分を、いわば下等なものとしてそぎ落としてきた。マンガやファンタジーの流行の裏には、それがある。両者は共に、ジャンルそのものが最初から仮構であることを明示している。そこが重要なのである。

そこでは人は安心して仮構の世界に浸る。そこに宗教の大きな機能があったが、意識的な社会は宗教という形をなし崩しに壊してきた。平成という時代はその頂点であるのか、まだこの意識寄り傾向が続くのか、私は判断できない。

同時多発テロは「忠臣蔵」みたいなもの >

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著者紹介

養老孟司(ようろう・たけし)

解剖学者

1937年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、ベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)ほか多数。

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