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中野信子 サイコパスはなぜ経営者に多いのか 

2018年08月07日 公開

中野信子(脳科学者)

共感が欠落し、リスクを低く見積もる人たち

――31万部(2018年6月上旬時点、電子書籍含む)の大ベストセラー『サイコパス』(文春新書)。拝読して驚いたのは「サイコパス」にも良し悪しがある、という点です。本書ではサイコパスの定義を「尊大で、自己愛と欺瞞に満ちた対人関係を築き、共感的な感情が欠落し、衝動的で反社会的な存在」としていますが、必ずしも全員が犯罪者になるというわけではない。

中野 本書ではわかりやすく「勝ち組サイコパス」「負け組サイコパス」と表現しましたが、サイコパスのなかには猟奇殺人など犯罪を行なって社会から脱落する人もいれば、政治家や経営者になって成功を収め、社会的に認められた人もいます。第6章で引用した心理学者ケヴィン・ダットン氏の調査「サイコパスの多い職業トップ10」の一位は「企業の最高経営責任者」です。

――たしかに以前、放送されたBBCのドラマ『SHERLOCK シーズン4』に「シリアルキラー(連続殺人犯)の実業家(カルヴァートン・スミス)」が出てきました(笑)。

中野 ついにそこまで来ましたか(笑)。実際、世の経営者は殺人こそ犯しませんが、「社会的生命を断ち切る」という意味では、じつは「キラー的」要素をもっている。

社長に求められる経営判断のなかには、下請け業者を切る、社員をリストラするなど相手の人生を左右する非情な行為が含まれます。普通の人なら二の足を踏むような決断を迷わず即座に下せる人が、「名経営者」と呼ばれるわけです。そのとき、プラスに働くのが「共感的な感情の欠落」「リスクを低く見積もる」というサイコパスの性質です。

サイコパスと呼ばれる人びとの遺伝子が人類史上、残ってきたのは、昔も現在もサイコパスを必要とする社会状況があるからでしょう。

たとえば、サイコパス特有の「リスクや重圧に直面しても恐怖や不安を感じない」「平気で嘘がつける」などの性質は、裏を返せば「多くの人が忌避し躊躇する仕事ができる」ということ。したがって、すべてのサイコパスが社会にとって有害というわけではありません。

「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」の違いを脳科学から見ると、両者の差異は前頭葉にあります。勝ち組サイコパスの前頭葉を見ると、「背外側前頭前皮質」と呼ばれる部分が厚い。では、この箇所が厚い人は何が違うのか。

それは「長期の予見能力がある点」です。先ほど話したように、サイコパスは恐れ知らずで、共感性をもちません。ただし「いまこれをやってしまったら、あとで問題になるので控えておこう」という危機の予見はできるわけです。

だからこそ、仮に「実業家のシリアルキラー」がいたとしたら犯罪は露見しにくいし、利用できる者は利用する、という冷酷な打算もできるでしょう。

――なるほど。それにしてもなぜ、経営者にサイコパスが多いのでしょう。

中野 企業の経営者や政治家のように、人に指示を与えて動かし、収益や成果を上げる仕事に向いているのは「人をコントロールしたい」という欲求が強い人です。

じつは他人に指示を与えて動かすというのは、人間の脳にとって負荷が重い。普通の人は「自分に決定権が与えられたら怖い」「責任を取りたくない」と思ってリスクとリターンを天秤に掛け、程よい仕事や立場を選ぼうとします。

ところが、サイコパシー(サイコパスの度合い)の高い人は「共感が欠落している」うえに「リスクを低く見積もる」という性質があります。だから失敗して責任を取るリスクよりも「賞賛や注目を浴びたい」「人を支配したい」という欲求が勝ち、「社長になりたい」と思って経営者になるわけです。

(本稿は『Voice』2018年8月号、中野信子氏インタビュー「サイコパスに向く仕事」を一部抜粋、編集したものです)

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著者紹介

中野信子(なかの・のぶこ)

脳科学者

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行なう。東日本国際大学教授。

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