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村田晃嗣 在韓米軍撤退の悪夢「トランプを第二のカーターにしてはならない」

2018年12月07日 公開

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

米トランプ大統領は在韓米軍の削減や撤退を示唆している。だがもしそうなったとき、朝鮮半島ひいては日本を取り巻く安全保障環境はどうなるのか。アメリカの外交・安全保障政策に詳しい同志社大学の村田晃嗣教授が分析。※本稿は『Voice』2019年1月号、村田晃嗣氏の「在韓米軍撤退の悪夢」を一部抜粋、編集したものです。

 

「反対です、大統領閣下」

「諸君は本当に反対なのか」

いまから40年近く前の1979年6月30日、ソウルで韓国の朴正熙大統領との会見を終えて米大使館に戻る車中で、ジミー・カーター大統領は、怒気を含んで側近たちに尋ねた。

「日韓両国との協議ののち、在韓米地上軍を4、5年内に慎重かつ秩序正しく撤退させる」――76年の大統領選挙で彼が公約した撤退政策は、内外で強い反対に直面していた。

「反対です、大統領閣下」

気まずい沈黙ののち、ウィリアム・グライスティーン駐韓米大使が口火を切った。同乗していたほかの側近たちもこれに続いた。帰国後、大統領はこの撤退政策を次期大統領選挙後の81年まで延期すると発表した。

80年の選挙では、カーターは共和党のロナルド・レーガン候補に惨敗した(拙著『大統領の挫折――カーター政権の在韓米軍撤退政策』有斐閣、1998年)。

なぜカーターは在韓米軍の撤退を企図し、挫折したのか。筆者の20年前の疑問は、今日でも意味があるようである。

「35億ドル、兵員2万8000人だぞ」。トランプは、本気で激怒していた。「駐留する理由がわからない。ぜんぶこっちへ呼び戻せ!」。

「では、大統領」。コーン国家経済会議委員長がいった。「夜に安心して眠るために、その地域に何が必要になるのですか?」。

「なにも必要ない」。トランプはいった。「それに、私は赤ん坊みたいにぐっすり眠れる」。

プリーバス大統領首席補佐官が会議の終了を宣言した。マティス国防長官はひどくしおれているようだった(ボブ・ウッドワード、伏見威蕃訳『恐怖の男 トランプ政権の真実』日本経済新聞出版社、2018年)。

カーターは韓国の人権侵害に反発し、小国(当時の韓国)を侮って、安易に撤退政策を選挙公約にした。トランプが問題視しているのは、在韓米軍駐留のコストである。

アメリカ外交の文脈では、2人とも孤立主義的であり、ワシントン・アウトサイダーという点も共通している。しかし、トランプはカーターより感情的で、側近や実務家たちの意見に耳を傾けない傾向が強い。

しかも、カーターの時代と異なり、北朝鮮は核保有国であり、いまや米朝は直接交渉している。アメリカは目下、米韓合同軍事演習も中止している。韓国も南北和解に前のめりになっている。

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