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経営陣の"叱咤激励”に追い詰められる現場… 「スルガ銀行の不正融資問題」の内幕

2019年05月17日 公開
2019年05月17日 更新

浪川攻(なみかわ・おさむ)

 

「ローン金利が高いが、必ず貸してくれる」

しかし、この一件で驚かされるのはまだ先のことだった。その後、スルガ銀行の危機管理委員会(委員長 久保利英明弁護士)と、それに続く、第三者委員会(委員長 中村直人弁護士)による調査を通じて浮かび上がってきたスルガ銀行の実態は、想像をはるかに超えた不正の山だったからである。

9月7日に公表された第三者委員会の調査報告書は本文だけでも321ページに及ぶ大量の調査事実が記されていた。その詳細さにおいて、おそらく、歴史に残るような調査報告書である。

ここでは、そのエッセンスを記すにとどめるが、要するに、スルガ銀行では近年、組織ぐるみの不正行為が蔓延していた。

シェアハウスビジネスのディベロッパーに対する融資の不正はもとより、その物件に投資したシェアハウスオーナー向けの融資にしても、本来の融資基準からすれば融資を謝絶してしかるべき人たちにまで、自己資金を水増しするなどの審査関係書類の改ざんが銀行員主導で行なわれ、融資が実行されていた。

投資物件関係資料にしても、サブリース契約を偽装し、現実的な家賃設定額の見込みを超えた家賃を設定し、建物の検査済証や確認済証の偽造も疑われるような案件まで第三者委員会は把握している。

要するに、ディベロッパーと銀行が結託する形で砂上の楼閣のようなインチキビジネスが積み上げられていた状況が明らかにされたわけである。

スルガ銀行は、岡野喜太郎によって1895年に設立された。岡野家が代々、社長を務めてきた経緯がある。静岡県では、大御所の静岡銀行が存在していることもあって、県東部の沼津市に本店を構えるスルガ銀行は、静岡県と同じように神奈川県にも店舗ネットワークを張り巡らせ、首都圏でも積極的にビジネスを展開してきた。

元来、独自路線の銀行として知られ、各種の個人ローンに力を注ぐ一方で、外国人向けの海外送金ビジネスに取り組んだり、あるいは、他の銀行が敬遠したゆうちょ銀行とも住宅ローンで提携したりと、独特の経営ぶりをみせていた。

しかし、それとは別に、不動産ディベロッパー向けや投資用不動産向けの融資にも積極的であり、地域銀行が次第にアパート・賃貸マンション建設向けの融資を首都圏で積極展開するようになった2012~2013年ごろから、この分野でも同銀行の存在がひときわ目立つようになっていた。

投資用マンション投資などに過熱感が漂い始めた5年ほど前から、ときおり、不動産投資愛好家などが開設したブログをチェックしていたが、それらのなかには、明らかにスルガ銀行と分かる銀行について記されているものもあった。「○○○銀行はローン金利が高いが、必ず貸してくれる」といった感じである。

それらを読む限り、スルガ銀行がかなり積極的にアパマンローンを展開しているという感触が得られていた。

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