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「デフレで得をしたのは年金受給者」アベノミクスを実行した元日銀副総裁の指摘

2019年05月29日 公開

岩田規久男(元日銀副総裁)

<<「物価が下がるのはよいこと」と考えがちな世間の風潮に対して、デフレで物価が下がることの大いなるデメリットを、元日銀副総裁の岩田規久男氏が著書『なぜデフレを放置してはいけないか』にて指摘している。

デフレの問題点を鋭く指摘する同書より、その一節を紹介する。>>

※本稿は岩田規久男著『なぜデフレを放置してはいけないか 人手不足経済で甦るアベノミクス』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです

 

デフレの脅威に鈍感な日本人。なぜ物価が下がると困るのか

日本経済が「失われた二十年」に陥った原因は日本経済がデフレに陥ってしまったためである、と考える人は、日本では少数派です。

普通の人に「物価が下がり続けるデフレは、困ったことだと思いますか」と聞けば、「物価が下がるのはありがたい。いま、日銀は物価を上げようとしているらしいが、そのほうが困ったことだ」と答えるでしょう。

しかし、デフレ経済では、消費者としての家計(とくに働いていない専業主婦)の立場から見ると、物価が下がって、家計費が安くなって助かると思える一方で、所得を得るために働いている家計(とくに、家族を経済的に支えている世帯主)の立場から見ると、給料が上がらず、雇用も安定しない状況に置かれることになります。

すなわち、デフレ下ではリストラ、失業の怖れや、賃金が低く、かつ雇用の安定しない非正規社員にしかなれない、新規学卒の就職難といった、働く立場から見れば悪いことばかりです。

したがって、消費者の立場から見て「物価が下がって、家計が助かる」とのんきなことをいっている場合ではないのです。

日本経済が普通の先進国並みの元気を取り戻すためには、「物価が下がるデフレは生活費が安くなるから良いことだ」といった、消費者の立場からしか経済を見ず、働く立場から経済を見ようとしないという意味で、「デフレの脅威」に鈍感な多くの日本人の目を覚ます必要があります。

日本経済が長期経済停滞から抜け出す方法を考えるうえで、最大の壁になっているのは、多くの日本人が「デフレの脅威を知らず、デフレに鈍感だ」ということです。あるいは、デフレとともに生活することに慣れてしまった、といったほうが適切かもしれません。

困ったことですが、日本では、欧米の経済学者と違って、多数の経済学者もまたデフレの脅威に鈍感です。

日本では、デフレが、名目と実質の成長率の低下、不良債権の増加、失業者と非正規社員の増加、就職氷河期と呼ばれるような新卒の就職難、出生率の低下、生活難を原因とする自殺者の増加など、私たちの生活に対してさまざまな負の影響をもたらす元凶である、と認識している人はきわめて少数です。

日本では1990年代以降、経済が長期にわたって停滞したのは、90年代に入って突然、技術進歩が停滞したためだとか、銀行が収益性のない企業に貸し続けたためだ(追い貸し説といいます)とか、90年代後半に自殺者がそれまでの年間2万人台から3万人台に急増したこととデフレとは無関係だ、とかいった、デフレと90年代以降に起きた経済の不調とは関係ない、という論調が主流でした。

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