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「負けるはずがない」イギリス「ワースト宰相」が犯した過ち

2019年09月20日 公開

岡部伸(産経新聞論説委員・前ロンドン支局長)

岡部伸※写真はイメージです。

ブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐり、欧州情勢の混迷は深まるばかりだが、その原因をつくったのは、2016年6月に国民投票を実施したデーヴィッド・キャメロン元首相にあることは間違いない。国民投票以後、離脱派と残留派の溝は深まるばかりで、イギリス議会は両者の対立により収拾のつかない状況が続くことになった。

そのキャメロン氏は、9月19日、国民投票へ至る内幕を記した回顧録を発表し、「国の分断を招き、失敗だった」と述べた。彼が犯した誤算、そして過ちとは何だったのか。

※本稿は、岡部伸著『イギリスの失敗』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

「万が一にも負けるはずがない」との思い込み

「(英国という船の)船長たり得ない。後悔はしていない。英国の政治が先延ばししてきたEUとの関係をはっきりさせる必要があった」

16年6月、国民投票で離脱が選択され、残留の目論見が外れたキャメロン氏は、ロンドンの首相官邸前で行なった辞任表明会見で、こう述べた。

キャメロン氏は、国民が離脱を選ばず、かなりの確率で残留派が勝利すると予測していた。

盟友だったジョージ・オズボーン元財務相が強く反対したにもかかわらず、国民投票を断行したのは、「万が一にも負けることはない」と思い込んでいたからだ。

75年に実施した欧州共同体(EC、EUの前身)の残留を問う国民投票では、67%の高率で残留が支持された経緯もあった。

EU改革は必要だが、残留を継続するべきと考えるキャメロン氏は、EU側に離脱をちらつかせて交渉で譲歩を引き出し、その成果を元にEUに残留しようと目論んだのである。

実際に16年2月、EUとの協議で、さらなる統合深化は英国には適用されない、緊急事態にはEU内からの移民への社会保障を制限できる、EUは規制緩和へ努力する──などの譲歩案を引き出した。

しかし、欧州懐疑派などからこうした譲歩案は酷評され、保守党の下院議員330人中、ジョンソン氏(現首相)ら約150人が離脱派へ造反する事態となった。

キャメロン氏にとって予想外の誤算の一つは、国民投票直前の16年4月、租税回避地(タックスヘイブン)の利用者を暴露した「パナマ文書」が突然、世界的に公開され、キャメロン氏の亡父のイアン・キャメロン氏の名前が出たことである。

タックスヘイブンを使って、キャメロン一族が税金逃れをして投資ファンドで蓄財していたという疑惑が浮上した。

キャメロン氏が持つエリート臭への嫌悪感も入り交じり、人気は急落。離脱派の勢力が強まる一因となった。

こうして「万が一にも負けることはない」とキャメロン氏が過信していた国民投票で、残留派は敗北することになったのである。

 

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