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目的も分からず戦地に赴く兵士…「敵も味方も分からなくなった」現代の戦争

2020年02月19日 公開
2021年04月23日 更新

喬良&王湘穂(訳 Liu Ki)

 

技術が戦場を広げていた過去

「行ってきます!」

荷物を背負った青年は家族に別れを告げ、恋人や妻、両親は涙ぐんで彼を送り出す。これは戦争映画によく出てくる場面だ。

青年は馬に乗って行くのか、列車や船または飛行機に乗って行くのかは、さほど重要ではない。大事なのは彼が永遠不変の行き先、戦火の絶えない戦場に赴くことだ。

歴史上、冷たい兵器の時代においては、戦場は小さく兵士はそこに密集していた。一つの平地、一カ所の要塞、あるいは一つの街で双方の大軍は体をぶつけ合って格闘をくり広げる。

現代の軍人から見れば、人をうっとりさせる古戦場は、軍用地図に描かれる点のような場所にすぎず、近代戦争の広々とした壮大な場面とは比べものにならない。

火器の出現によって軍隊の陣形は分散し、点状の戦場はだんだん戦線へと広がった。

第一次世界大戦のときの延々数百キロにも及ぶ塹壕は、点と線からなる戦場を横へ極端に長く延ばし、同時に縦にも数十キロに及ぶ平面型の戦場に変えた。

当時の戦争経験者にとって、新型の戦場は塹壕、トーチカ、鉄条網、機関銃、砲弾穴を意味していた。軍事技術の爆発的な変化は、戦場の空間をも爆発的に拡大した。

戦場は点状から線状、平面から立体へと膨張し、その膨張ぶりは予想以上に速く、ほとんどとどまるところがなかった。

戦車が轟音を響かせながら塹壕を潰して通っていくときに、「ツェッペリン」飛行船もすでに爆弾の投下を習得し、プロペラの飛行機にも機関銃が取り付けられていた。

 

思想は戦争空間をつくる

まだどの軍事思想家も究極の戦場概念を作り上げていないうちに、技術はすでに現代の戦争をほとんど果てしない領域に広げていた。

宇宙には人工衛星があり、海底には潜水艦があり、弾道ミサイルは地球上のどこにでも飛ぶことができ、目に見えない電磁波空間の中で電子の戦いが行われつつある。

人類の最後の避難所である心の世界でさえ、心理戦の打撃を避けられない。誰もが、天地四方に覆いかぶさっている戦争の網から逃げられないのだ。

作戦地域の幅や奥行きや高度などといった軍事用語は、すでに時代遅れのものになっている。戦場の空間は人類の想像力と技術の掌握により、極限に迫る勢いだ。

にもかかわらず、技術に誘導されてきた思想は自ら踏み出した足を止めようとはしない。技術の誘導によってさらに魅力的なビジョンが映し出されているからだ。

通常の空間に戦場を限定しては、あまりにも窮屈だ。未来の戦場は、これまでの戦場のサイズを機械的に引き伸ばすだけではすまなくなっている。

海のさらに深いところで、あるいは空のさらに高いところで行う戦争こそ未来の戦争の拡大・発展の趨勢であるとする見方は、普通の物理学の程度にとどまった皮相な観察と結論にすぎない。

真に革命的な意義を持つ戦場の変化は、非自然空間での開拓によるものである。例えば、電磁波の空間を従来的意義の戦場空間と見なすことはできないだろう。

それは技術が作り出し、技術に依存している別の空間であり、こうした「人工空間」あるいは「技術空間」の中では、長さ、幅、高さ、あるいは陸、海、空といった概念はすべて意味を失ってしまう。

というのは、電磁波信号は通常の空間を占拠しないが、同時にこの空間を充満させ、コントロールできる特殊な存在だからである。

今後の戦場空間で起きる重大な変化や拡大は、ある種の技術発明、あるいは複数の技術結合が斬新な技術空間を創造できるかどうかにかかっている。

現代の軍人たちの注目を集めている「インターネット空間」がすなわち、電子とIT、それに特別に設計された連結方式によって形成された技術空間である。

もしこの空間で行われる戦争が、やはり人間によって完全に操作、コントロールされるとしたら、次に出現する「ナノ空間」こそ、真に無人化戦争の夢を実現する希望を人類に持たせるだろう。

想像力と創造力にあふれている一部の軍人たちは、明日の戦争にこれらの新しい技術空間を導入しようと企んでいる。

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