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トランプはファシストなのか、米国の分断を生んだ“本当の要因”



2020年07月14日 公開

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

村田晃嗣写真:吉田和本

新型コロナ禍が世界を覆う中、トランプ政権の元幹部が大統領のことを「ファシスト」と批判するなど、アメリカは分断に陥っている。「アメリカ・ファースト」を唱えた大統領は過去にもいたが、トランプ氏はこれまでの指導者と何が異なるのか。同志社大学法学部教授でアメリカ外交が専門の村田晃嗣氏が、トランプ版「アメリカ・ファースト」の特徴と米国が抱える難題を指摘する。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年8月号、村田晃嗣氏の「トランプは米国分断の『拡大鏡』」より一部抜粋・編集したものです。

 

1930年代の米国との類似点

1940年に、アメリカの有権者はフランクリン・D・ローズヴェルトの大統領三選を認めなかった。大統領はアメリカを戦争に巻き込もうとしていると、「アメリカ・ファースト」を唱えた共和党の新人チャールズ・リンドバーグが当選したのである。

1927年に大西洋単独無着陸飛行に成功した英雄であり、ナチスの支持者でもあった。まだ30代のリンドバーグ大統領は自ら飛行機を操縦して全米各地を歴訪し、大衆的人気を博した。アメリカでユダヤ人排斥運動が静かに進行し、やがては大規模な暴動が発生する――。

ピュリツァー賞作家フィリップ・ロスによるディストピア小説『プロット・アゲンスト・アメリカ』(柴田元幸訳、集英社)のあらすじである。表題は、ファシストによる「アメリカに対する陰謀」を意味する。テレビドラマ化されて、最近日本でも配信が始まった由である。

じつはすでに、ノーベル賞作家シンクレア・ルイスによるIt Can’t Happen Here(「この地でそんなことは起こりえない」1935年)があり、この小説でも、架空のポピュリスト政治家が大統領に当選して独裁政治を敷き、ユダヤ人を迫害する。

同年に暗殺された「キングフィッシュ」ことヒューイ・ロング上院議員(前ルイジアナ州知事)がモデルである。

アカデミー作品賞などを受賞した映画『オール・ザ・キングスメン』(1949年、2006年にリメイク)でも、ロングが主人公のモデルとされている。ディストピアどころか、これは、われわれの眼前にある事態ではないか?

ドナルド・トランプ氏も政治経験ではなく大衆的知名度を動員し、「アメリカ・ファースト」を提唱して大統領に当選した。トランプ大統領の武器は、飛行機より早くどこにでも届くツイッターである。

また、トランプ氏もしばしば人種差別的な発言を行ない、物議を醸している。

しかも、1918年のスペイン風邪を想起させる新型コロナウイルスが世界を覆い、世界大恐慌の再来さえ危惧され、白人警察官による黒人殺害事件を契機にデモと暴動が展開されている。

最近では、ジェームズ・マティス前国防長官が、アメリカに必要なものは団結であって、ナチスのような分断ではないと、この元上司の治安対策を批判した。

つまり、トランプ大統領とナチスを結び付けたのである。ロバート・ライシュ元労働長官も、「トランプはファシストだ」と明言している。

1930年代のアメリカにも、「新しいドイツの友」や「銀シャツ隊」などのファシスト組織が活躍していた。ナチス支持者のリンドバーグなどは、ドイツのヘルマン・ゲーリング空軍大臣から勲章を授与されている。

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